【Report】NORAH TALK|米と酒とその間

3月の NORAH TALK のテーマは、「米と酒とその間」。

第10回目を迎えたSAKE FLEA開催のなか、自分たちで米づくりから醸造まで手がける3名を招き、田んぼから始まる酒造り、味噌づくりについてお話を伺った。

▼ゲスト
寺田 優氏 寺田本家24代目当主|https://www.teradahonke.co.jp/
宮本 晃裕氏 宮本みそ店代表|http://miyamotomiso.jp/
吉田 泰之氏 吉田酒造店役員|http://www.tedorigawa.com/

写真|千葉県「寺田本家」24代目当主・寺田 優氏 
 
米づくりは、地域に根ざした営み
今回は千葉で日本酒を造る寺田本家より寺田優さん、石川で「手取川」などを手がける吉田酒造店の若きエース吉田泰之さん、そしてファーマーズマーケットでもお馴染み、富山で味噌や甘酒を造っている宮本みそ店の宮本晃裕さんが登壇してもらった。三者に共通しているのは米作り。そして、その米を作って加工品を作っているということ。酒や味噌のために米を造るとは、どういうことなのだろうか?
 
寺田さんは、20年以上も米作りを続けているという。「20年前ってうちで扱う無農薬の米って栽培しているところが少なかったんです。近隣に何軒かはあったんですが、お酒にするには足りなかったので、自分たちでも作ろうということに」。

酒仕込みの本場は冬。多忙な季節が明け夏が来ると、蔵では大して仕事がない。そんななか、夏場にも仕事を作れたら、という経緯で田んぼを始めた経緯もあったそう。夏は農家、冬は酒仕込みに明け暮れる。「蔵の仕事というのはずっと建物の中にいて、日の目を見ないんですよ。朝、暗いうちに蔵に入って、気がつくと真っ暗で。という仕事なんですけど、田んぼへ行くと逆で、日中はずっと光を浴びながらやるので。そのメリハリがすごく大事だな、と思っています」
 
実際に自分たちで米を作り始め、農業の苦労を実感したという寺田さん。酒造りに必要な量を耕すにはどうしても機械が必要となるが、「機械に投資した分を回収するため、見合った面積を生産するのが結構大変なんですよ」と話す。
 
「うちでは栽培するのは在来種などの米。あまり品種の中でも量が取れないものを作っています。千葉で昔からあった品種をやるのが地域に合うし、面白いなと思っています。ただ、収穫量も少ないし、他の農家さんと時期が大幅にずれたりするので、水が回ってこない、といったこともよく起こります」。苦労も絶えないが、自分たちで手がけた米を使った酒造りはやりがいがあるという。
 
写真|石川県「吉田酒造店」役員・吉田 泰之氏
 
一方で吉田さんは「うちはまだ難しいところがあって、寺田さんのように自然農法での米作りはできていません」と話す。「最高のお酒を作るためには、最高の原材料を」と言われるように、日本酒業界でのメインストリームは、兵庫県の山田錦を筆頭としたブランドもののの酒米。以前は手取川も兵庫の酒米を使っていたが、吉田さんが蔵に戻ってからは「地元のお米を築いていきたい」ということで周辺の農家と手を組み始めた。
 
「だんだん蔵の周りの田んぼがなくなっていたんです。農家さんがどんどん米作りを辞めていって。田んぼの跡地に、そこに工場や、大きなショッピングモールが始めて、このままでは水が汚染されてしまう。となると100年先に酒造りはできなくなるな、と危機感を抱きました。そこで、まずは地元の農家さんに『酒米を作ってください』とお願いするところからスタートしました」
 
酒米を作るというのは大変なことなので従来よりも高い金額で契約し、農家側に安定収入を約束した酒造りを。「将来的には寺田さんのところのように、自然農法、無農薬というようにやっていきたいんですが、自然農法をするには膨大なエネルギーが要るので、、農家さんの状況も踏まえ、段階的に取り組んでいきたいと思っています。今は40軒の農家さんに減農薬をお願いをしています」。米作りの厳しい現状は、様々な経路でファーマーズマーケットにも声が届いている。
 
写真|富山県「宮本みそ店」代表・宮本 晃裕氏

味噌づくりに向けて自ら田んぼを耕す宮本さんは、地域の米農家の状況も話してくれた。「米農家はうちの近所では65歳以上がほとんどで、その次の世代だと僕くらいになるんですが、それくらいになると全く田んぼい出ていない。そうした状況の中で、どうやって地域の田んぼを守り、コメの品質を上げていくか、と考えた時に、自分たちだけが自然農法でやるとなると周囲の反発があったりと、なかなか難しい環境です。僕たちは二人で仕込みをしながら田んぼも手がけているので、なかなか寺田さんほど手をかけることができません」そして「少ない面積と収穫量ですが、麹に使う米だけは自分たちで作る、というところを重視しています」と話す。

どぶろくと清酒の立ち位置
話は米作りから酒造り、味噌づくりへ。もとは農産物である酒と味噌には、土地の味が大きく現れる。中でもどぶろくは、その農産物由来の味の強さがダイレクトに出るのでは、という声もあげられた。

現在において「酒」というと清酒のカルチャーが台頭している背景で、歴史を読み解いていくと、民衆の手で作られる「どぶろく」は、もっと日常に近い、かつその土地どちで作られていたことがわかる。「清酒は職人が作るもの」というイメージが浸透している一方で、どぶろくは「クラフト」とも言えるような、手元で作る手弁当の酒とも言えるだろう。そこで、寺田さんに、なぜ清酒からどぶろくまで作られているのかを伺った。
 
どぶろくと清酒の違いは、基本的には絞るか絞らないかというのが大きな点。どぶろくは絞らないため、米の要素が全て入っている。「つぶつぶしたものも入っていて、それを全部いただく、というのがどぶろくです。清酒はそれを絞ることで、もっとクリアなスッキリとした味になります。うちでは時折、蔵をお客さん後悔して、もろみなどを味見していただくのですが、絞る前のどぶろくがとても好評で」。
 
「実はどぶろくの作り方ってとても簡単なんです。麹と米と、水があれば、まあ大体できるので。今うちも絞らない酒を販売し始めてるんですけど、流通が結構難しい。どぶろくは酵母が活性化して、瓶から溢れて爆発しやすいんですよ。なので瓶詰めするものは火入れして、酵母の活動を止めてからお届けします。お米の発酵した楽しみをご家庭でも楽しんでいただきたい、というのが一番はじめのスタートですね」と寺田さん。
 
華やかな、いわゆる香り系の酒が影響力を持っている流れのなかで、清酒のみを造っている吉田さんに、寺田さんのどぶろくがどういう風に見えてるのか伺ってみた。「米そのまんまの味、というのが印象的ですよね。僕は日本酒を作るときに、絞ってお米の味そのままを表現しようと思ってきましたが、確かにどぶろくだとお米の形や味わいをダイレクトに感じられますね。うちでももろみの発酵してる状態ってめちゃくちゃ元気なんですよ。それをそのまま商品化するのは難しさを感じます。火入れをすればある程度は大丈夫なんですけどね…。どぶろくが持っているエネルギーや味わいのインパクイトってすごく強いなって思うんです。それを飲んだ時に完結してしまうくらいの強さだなと思います」。
 
清酒には、どぶろくとは違うどんな役割があるのだろうか。「食中酒としてお酒を楽しむといったときに、どぶろくほどエネルギーがあると、めちゃくちゃ料理を選ぶと思うんです。そこで日本酒のように、こういう決まったところに落ち着くと、いろいろな動きができたり、いろいろなマリアージュができたりという繋がりが出てくるので、どぶろくももちろん作品なんですが、日本酒ならではの作品性みたいなものがあるなと感じてます」と吉田さんは話してくれた。

副産物を資源として活用する
参加者より、酒粕の活用について質問が寄せられた。「栄養価の高い酒粕は 付加価値を新しい商品に変えて行くことに注目が集まっている中で。

質問に対し吉田さんは、「酒粕は、すごい量が出てきます。瓶一本作るのに、その体積の1/4は出てくるんです。正直、処理に困っていて、処理しきれずに廃棄処分することも。酒粕も発酵が止まらないので、暖かいところにおいているととてもすごいことになります。そうした点で管理は難しいのですが、おっしゃる通り可能性はすごくあるので、今後活用してけたらなと考えてはいます。栄養価が本当に高い。アミノ酸や、食物繊維も豊富だし、美容と健康にもすごくいいので、使っていけたらとても良いですね。ですが、蔵元としてそこまでエネルギーを使えるかといったら難しい。誰か酒粕を活用してくれないかな、と思っているのが多くの蔵元の本音だと思います」
 
寺田さんは、10年ほど前から酒粕を小売販売している。「うちで出る酒粕はほとんど小売で打ち切っています。もしくは農家さんに引き取ってもらって資料にしてもらったり。当初は全然売れませんでしたが、うちの嫁さんが料理をやっているのでレシピを提案したり、油と相性がいいので、油と合わせて塩を入れてチーズのような商品も出しながらやってきました」。数年前にテレビ番組で取り上げられてから、しばらく売り切れ状態が続き、今でも酒粕が出る時期になると予約販売をしている。酒粕活用の体制を整えるには骨が折れそうだが、世間の需要は高いようなので酒蔵が取り組んでいる価値があるかもしれない。
 
宮本も、味噌粕は酒粕のように量はでないが、味噌を醸造する際に出る汁(味噌だまり)は、たまに自分たちで口にする以外は全て畑に巻いていると教えてくれた。
 
若手三人が聞かせてくれた、土地に根ざした米作りと、酒・味噌づくりの話。それぞれの業界だけでなく、地域、そして資源循環まで考えを巡らせた彼らの営みは、ファーマーズマーケットに集まるさまざまな立場の人々にも学びの多いものだった。これからもSAKE FLEA/Farmer’s Market Community Clubを中心に、彼らの畑と、蔵と、その周りに見える風景について話をしていきたい。
 

 
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▼Farmer’s Market Community Clubでは活動メンバーも随時募集中
Farmer’s Marketに集う農家さんを中心とした、NORAH(野良)的な感性を持つ多様なメンバー。時代や季節の変化に応じて、柔軟に生きること。自由な発想で自分の生業を生み出していくこと。日々変わる状況を楽しみ、力に変えていく。そんな生き方を実践しているのが、このFarmer’s Marketに集う人々です。

いま、10年目を迎えるFarmer’s Marketにおいて、農家さんを支え、共に学び楽しみ、農的暮らしの探求するためのコミュニティが必要だと考えました。その活動の中心となるのが、このFarmer’s Market Community Club。都市における農や食の新たな関わり方の提案の一つであり、実験の場でもあるFarmer’s Market。このムーブメントを更に発展させ、継続していくための、メンバーを募集します。
http://farmersmarkets.jp/communityclub/
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2019.4.10

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