【Report】NORAH TALK |パン耳から生まれた物語 〜 食べるパンと飲むパンの話し 〜

私たちの生活においてごく身近に感じられるようになったフードロスの問題。青山ファーマーズマーケットでも、様々な角度からフードロスに向き合いアプローチを試みています。5月は、第15回青山パン祭りの開催に伴い、多くのベーカリーが直面しているであろう廃棄パンのゆくえについて、パン耳からビールを開発した二人をゲストにお招きして、お話を伺いました。今回のNORAH TALKのテーマは、「パン耳から生まれた物語 〜食べるパンと飲むパンの話し〜」。

西麻布のレストラン・L’Effervescence(レフェルヴェソンス)のエグゼクティブシェフとして活躍しながら、六本木にオープンしたbricolage bread & co.(ブリコラージュ ブレッド&カンパニー)でも指揮を執る生江史伸さん。青山ファーマーズマーケットでもお世話になっている料理人のひとりだ。そんな生江さんは、原宿・キャットストリートを拠点に地域活動 CATsを運営する中村元気さんと組んで、パン耳からビールを開発した。

中村さんは、原宿というある意味消費の中心とも言える地で、クリーンアップ活動を通じたコミュニティ形成や、表参道の落ち葉を活用したコンポストを手がけるなど、生産する立場になる取り組みを実験的に行ってきた。2018年からは、地域のごみ問題の根本解決を目指すため「0 waste」つまり、ゴミや無駄のないライフスタイルの提案を行う活動”530week”をスタートしたところだ。

このバックグラウンドを異にする二人がどのような経緯でパンからビールを生み出すことになったのか。聞いていくと、そこにはただの資源の再利用にとどまらない、二人ならではの思想や思いが見えてきました。

▼ゲスト
生江史伸氏 レストランL’Effervescence エグゼクティブシェフ
中村元気氏 地域活動 CATs代表


写真:左から中村元気氏(地域活動 CATs代表)、生江史伸氏(レストランL’Effervescence エグゼクティブシェフ)

タルティーヌに使うライ麦パンの端を、ビールに。
日頃は異なるフィールドで活動する二人。出会いは昨年の秋、コーヒーとプラスチックについて考えるイベントにてだった。「本当にたまたま始まったんです。そのイベントで食べたパンがものすごく美味しくて」(中村)。「それで、最初は元気くんから僕へアプローチがありました。」(生江)。「僕は食品もテーマとして扱っていたので、こんなに美味しい素材がもし使われていない部分があるなら、ぜひ活用したいと思ったんです。それで、『こうしたパンで捨ててしまうものはないんですか?と』(中村)。

しかし、当初生江さんからは「ほとんど売り切ってしまっていて、余るパンはない」との回答。「ありがたいことにほとんど買っていただいてるんです。売り切れ始めるころに来店するお客様には申し訳ないなと思いながら、残ってしまった場合に捨ててしまうことが当たり前になってしまったらいけないなと…。僕は料理人で、食べ物を絶対に捨てるなと教えられています。ところがパン屋さんの多くがかなり捨ててしまっているのが現状だと知り、店のオープン前からなるべく捨てないようにしたいなと考えていました」(生江)

中村さんと生江さんには共通して、「活用されるならば余剰分を作り続けても良い」というメッセージを助長したくはないという思いがあったそう。破棄されてしまうパンの数は減った方が良いに違いない。そこで中村さんが提案したのは、パンの耳の部分を生かすことだった。

「お店をやっている以上、どうしても出てしまう部分てあるじゃないですか。そういうものがないか、生江さんにしつこく聞いたんです(笑)。以前、友人が、試しにパンからビールを作ったことがあるという話をしていたのを思い出して。彼にパンの耳からビールを作る方法を相談してみることにしたんです」(中村)。

「僕の店ではタルティーヌを出していて、大きなライ麦パンを使っているんですが、切り出していくと端が残ってしまうんです。料理人として、お客様に満足いただけるものを出したいとなると、どうしても端を使えないんですよね。そこで、それをパンプディングにしたり、パン粉にしたり、堆肥にしていただいたり…。それでも余るので冷凍したり。いつまでもこんなやり方で良いのか?と考えていました」(生江)。

一方で、ロンドンやNYでフードロス問題に取り組む活動にも背中を押されたと言う。「TOASTというプロジェクトは、イギリスの食文化において欠かせないトースト料理から、必ず出てしまう耳の部分から、二次的にビールを作り出しています。これがとても美味しくて、大きなムーブメントを巻き起こしているんです。NYで発起人に会い、日本でもこんな取り組みがしたいと話したら、『日本の方が無駄にしない文化を持っている。”もったいない”神や、お米を茶碗から残さない文化。アジアの中でも特に日本は意識が高く、僕日本から学ぶことが多い』と言ってくれました。これに大きく勇気付けられ、どうにかビールを作れないかと考えているタイミングに元気くんが連絡をくれたので、転がるようにぼくらのプロジェクトも始まっていったんです。100%パンではなく、ホップと大麦、輪形(古代小麦)パンにも使ってますが、そういうもの使っています。パンを作るのと0同じスケールで、パンと同じ原料を使って作っています。」(生江)。

美味しいことは、人に伝えたくなる
中村さんがパンからビールを作る伝手を持っていた一方で、生江さんもパン耳ビールのインスピレーションとなる食体験をしていたという。「TOASTのプロジェクトを知る前に、『ケファス』などと呼ばれるライ麦を原料にしたビールを飲んだことがありました。これがすごく美味しかったんです。調べたところ、ライ麦を使ったパンでビールを作る。ビールの立ち上がった酵母でまたパンを焼いていた。そのサイクルが美しいと思いました。今回せっかくブレッドビールを作ってもらったので、そこで立ち上がった酵母でビールを作ってみたいと思ったんです」(生江)。

そして、今回のプロジェクトはもちろん、あらゆる場面で重要となるのが、「それが美味しいものであること」「美味しい体験は、人に伝えたくなるものだ」という話に。「美味しいものは力を持っています。Farmer’s Maketにも、たくさんの美味しいものが集まってきますよね。。美味しいものこそ、人やことを繋げていきます。美味しい体験をするという喜びが、次の良いことのエネルギーに変わって行くんですよね」(生江)。

また、活動の中で食にまつわるものづくりに関わることの多い中村さんも、今回を通じて新しい気づきがあったとか。「日頃の僕らの活動は、社会正義より問題先行で、トピックを掲げて、それに対してアクションを募っていくというアプローチが多いんです。それはそれで、関心のある人が集まって良いのですが、声を大にして本当に伝えたくなることって、また違った原体験だったりすると思うんです。美味しくないと飲まない、っていうのは当たり前のことですが、難しいものづくりをしていく中で、『美味しいこと』を意識できたのはとても学ばされる機会でした。色々なことを、ポジティブな形で伝えていきたいですね」(中村)。

食べ物に対する敬意。受け継がれゆくバトン
bricolage bread & co.のシグネチャーとなるパンは、大阪のシュクレクールが作ったもの。生江さんは、シュクレクールのベイカー岩永さんの食べ物に対する姿勢や思想が、今回の取り組みにも生きていると話す。

「パンを作る工程で、生地を生地、などと言わず、「あの子は、この子は」と呼ぶんです。自分とがコントロール対象ではなく、自分と分け隔てなく対等なものだと捉えているんですね。引いた粉に対しても敬意を持っていて、こちらから働きかけて膨らませるというよりは、見守り続けて、最後に少しだけ手助けをするようにパンを作るんです。

相手が生きているものだというのをあまり感じて食べることがありませんが、例えば僕らが日々口にする肉料理だって、そこここに生える草花だって同じ生き物なんですよね。食べる体験を通じて、命を共有することは大事と思っています。

食卓に並ぶものは全て生き物ですから。僕らが耳を落として捨てるわけにはいかないわけです。どの子も、私たちの命を繋ぐ一員なので、たとえ人間社会で食べられなかったとしても、別の形で次の人生を送れるようにしてあげられたら良いな、というのが、僕なりの岩永さんから受け取った責任なんじゃないかなと思っているんです」(生江)。

そして、それはリレーでバトンを渡していくようなことだと話してくれた。

ちなみに生江さんは、ビールの醸造の現場に立ち会い、製造過程で残ってしまう穀物の甘い部分の活用にもアイディアを巡らせているという。「それを肥料として農家さんにお譲りして生きたいのですが、規定があって買い取れないそうなんです。現状はアスパラ農家さんに少しお分けしているそうなんですが、僕の方でもチーズを作る酪農家さんに使ってもらえないかアプローチしています。そうしていずれは、僕らのパンとビール、そこから生まれたアスパラやチーズを一つの食卓に載せて、もともと小麦を育ててくれた北海道の農家さんのところへ持っていきたいな、なんて夢を見ていたりします」(生江)。

こうしたプロジェクトへの関わりを経て、中村さんは今後どのような活動を展開していくのか。「生活の中を見渡して行くと、無駄になっていることや、 無駄にしたいってことではないと思うのですが、そうして物をゴミではなく、ある種の素材として捉えて、価値として捉えられると言うことをスタンダードにしていきたいです。今回のバトンの話に通じますね。ゴミをなくしていくという活動を、ビジネスの視点だけではなく、ものの次なる人生、という考え方で捉えていけたらと思います」(中村)。
 

写真:breadの文字がシンプルに印字されたビール。

今回作られたパン耳から生まれたビール「bread」は、その売り上げの1%が地域活動 CATsの活動資金に充てられる。これもバトンを繋ぐ一つの形と言えるだろう。

全ての食べ物は作られ、食べられるだけで完結するものでなく、生き物同士の繋がりとして受け継がれ続けてゆくものだと話してもらった。日々食べるもの、生活で触れるものについて、改めて行く先や次なる人生へと思いを巡らせていきたい。

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▼Farmer’s Market Community Club *活動メンバーも随時募集中
Farmer’s Marketに集う農家さんを中心とした、NORAH(野良)的な感性を持つ多様なメンバー。時代や季節の変化に応じて、柔軟に生きること。自由な発想で自分の生業を生み出していくこと。日々変わる状況を楽しみ、力に変えていく。そんな生き方を実践しているのが、このFarmer’s Marketに集う人々です。

いま、10年目を迎えるFarmer’s Marketにおいて、農家さんを支え、共に学び楽しみ、農的暮らしの探求するためのコミュニティが必要だと考えました。その活動の中心となるのが、このFarmer’s Market Community Club。都市における農や食の新たな関わり方の提案の一つであり、実験の場でもあるFarmer’s Market。このムーブメントを更に発展させ、継続していくための、メンバーを募集します。
http://farmersmarkets.jp/communityclub/
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2019.6.11

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