【Report】NORAH TALK|寿司、鮨、鮓。美味しいSUSHIを食べ続けるために

さかのぼること奈良時代。中国4000年の歴史までとはいかずとも、1000年以上の歴史を積み重ねてきた日本食「すし」。保存食である鮓から始まり、京文化ともいえる寿司や、江戸前握りを中心とした鮨。時代とともに移り変わってきた「すし」の歴史を学びつつ、今まさに未来を見据えてそこに関わるものづくりをしているお三方を招き、これからの「SUSHI」の話を伺いました。
 
▼ゲスト
愛媛県大洲 醤油蔵・梶田商店六代目 梶田泰嗣氏|http://kazita.jp/
神奈川県三浦 マグロ卸問屋・三崎恵水産二代目 石橋匡光氏|http://www.misaki-megumi.co.jp/
飯田橋 寿司・酢飯屋 岡田大介氏|https://www.sumeshiya.com/sushi/
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(写真:左から進行役の竹田、梶田さん、石橋さん、岡田さん。)
 
1月の NORAH TALK のテーマは、身近な存在である寿司。寿司にはどういう歴史があって、今食べてる寿司とはどういうものなんだろう、という基本的なことから、寿司・酢飯屋の岡田大介さんにまずお話いただいた。
 
「早ずし」と「なれずし」という寿司のジャンル分け

岡田さんが最初に触れたのが、寿司のジャンルについて。一般的には寿司の種類というと、巻物やいなり寿司、ちらし寿司といった名前が挙がるが、そのさらに上位にあるのが、早ずしなのか、なれずしなのかというジャンル分けだ。今、私たちが食べている寿司のほとんどは、早ずしと言われているもの。一方、なれずしはお酢を使わずに作られたお寿司だ。簡単に言うと、お魚にお米や野菜を漬け込んで自然に酸っぱくなっていき、その乳酸発酵された食べ物がお寿司のルーツと言われている。

すぐには作れないのがなれずし。それを江戸っ子が……
発酵期間はなれずしの種類によって様々だが、秋田県のハタハタ寿司だと2週間から1カ月ほど。滋賀県のふなずしの場合、最低でも1年間、さらに2〜3年と骨が溶けるくらいまで漬ける事もあり、早ずしのようにすぐには作れない。せっかちな江戸っ子が、ご飯に酢をかけて酸っぱくすればすぐに食べられるじゃないか、と始まったのが江戸前寿司だそう。

ふなずしを食べることで、寿司についての見方が広がる
岡田さんは、寿司好きの人にはぜひ一度、ふなずしを食べてほしいとおすすめする。自分がふなずしを好きか嫌いかを見出すことも含めて、これから寿司を食べ、語る上で幅が広がると提案してくれた。また、ふなずしは臭い珍味と、酸っぱくておいしい最高級品に二極化しているという。雑菌が入ると臭くなり、乳酸発酵が大成功すると日本で一番高い寿司になる。ふなずしの乳酸菌は体にいい、ということが証明されてきている点でも注目を集めている。

食べられる場所が少なくなっているだけに、なれずしを寿司の方向性として多めに取り入れていきたい、というのが今後の岡田さんのテーマだという。

日本の魚の流通がこだわってきたのは、鮮度の良さ

次に、寿司に欠かせない大きな要素であるネタについて。マグロ卸問屋・三崎恵水産二代目、石橋匡光さんにマグロの説明をしていただいた。日本で魚の流通にたずさわる人たちがずっとこだわり、競ってきたのは、鮮度の良さ。その鮮度の良さをはじめ、魚のグレードを左右するのはいつどこでどうやって獲れたか。網で獲れたのか、釣りなのか、どのように絞められたのか、など重要なポイントがあり、最終的にはサステナビリティ(持続可能性)につながっていく。
 
マグロの獲り方は、冷凍か生鮮か
マグロの獲り方は大きく分けると、冷凍か生鮮かの2つ。冷凍マグロは、大きな冷凍はえ縄船がケープタウンやハワイ沖など世界中の遠洋各地に行って、そこで獲ってすぐマイナス60℃に凍結して鮮度を維持しながら持ってくる。一方、生鮮は冷やし込みをして、世界中で獲られたマグロが飛行機に乗って日本に運ばれてくる。反対に日本から外国へ出ていくマグロも増えている状況だ。

寿司や刺身で食べる前提の魚は、釣りやはえ縄で獲って甲板で絞められ、すぐ冷やし込みされる。かたや、セスナ機で上空から巻き網で獲る場合は、網の中で暴れた魚が一度に上がり、冷やし込みも足りなくなる。こうした方法で獲られたものはツナと呼ばれ、文字通りツナ缶などに使われる。

クロマグロがいつでも一番おいしいわけではない?
マグロの種類は、一般的にもよく知られるクロマグロ(本マグロ)の他、ミナミマグロ(インドマグロ)、メバチマグロ、キハダマグロ、ビンチョウマグロの5つ。石橋さんが個人的に、お寿司に一番合っておいしいと思うのはミナミマグロだという。

クロマグロが本当のマグロで、一番おいしいのではというイメージもあるが、実際にはマグロにも旬があって、いつでも絶対にクロマグロがおいしいというわけではない。たとえば、新年の初競りでマグロが超高額で落札されてニュースになるが、あの時期に津軽海峡のクロマグロが旬を迎えるだけであって、夏場に同じ場所で獲っても産卵後なので同じおいしさは味わえない。

この日の試食用に持ってきてくれたのは、石橋さんおすすめのミナミマグロ。石橋さんたちの三崎恵水産がある三崎のマグロは、ほぼ95パーセントが冷凍。水揚げは日本で、獲った場所は南アフリカのケープタウン沖。ミナミマグロはオーストラリアの南のほうからケープタウンの南の海域が生息域だ。

こいくち、うすくち、たまり、再仕込み、白と5種類ある醤油

続いては梶田さんに、意外と知らない醤油の作り方や原料について教えてもらった。「さしすせそ」と言われる基礎調味料の一つであり、日本では多くの人が日常的に使っている醤油。

では何種類あるかというと、馴染みのあるこいくち、うすくちの他、たまり醤油、再仕込み醤油、白醤油の5種類。日本で消費される醤油の約83パーセントはこいくちで、約13パーセントはうすくちだ。聞きなれない白醤油は日本の醤油の約0.1パーセントでほとんど家庭では使われないが、せんべいを焼く時などに使われるのだという。

本醸造と混合方式という2つの製法の違い
5種類ある醤油はそれぞれ、2つの製法によって作られていて、本醸造なのか混合方式なのかという違いがある。製法は、たいてい醤油の容器の裏側のラベルに記載されている。本醸造と混合方式で何が違うかというと、醤油の中にアミノ酸液を使っていると本醸造とは言えなくなる。アミノ酸液とは、小麦を塩酸で酸分解したたんぱく加水分解物のこと。少し話が難しくなったが、梶田さんが強調したのは、「大きく分けると、本醸造で作ったものと、アミノ酸液を使ったものとで、ものが大きく変わってくることを知ってほしい」ということだ。

醤油の原料は大豆、小麦、塩、麹菌、水だけ?
醤油の原料って何? とあらためて考えてみると、スラスラとすべて挙げられる人は少ないのではないだろうか。梶田さんは日本醤油協会の「しょうゆもの知り博士」の一人で、醤油の普及と食育の一環として、小学校に派遣されることがある。その時には「大豆、小麦、塩、麹菌、水があったらお醤油になりますよ」と話していて、意外とシンプルだ。

では実際に「大豆、小麦、塩、麹菌、水」だけで醤油が作られているかというとそうではなく、日本で作られている醤油の約7割には脱脂加工大豆が使われている。その背景には日本人の食文化が西洋寄りになり、米よりも小麦の消費量が上回り、油の消費量が6倍になったという変化がある。大豆(その多くは輸入品)から油と水分を抜いて搾油した、たんぱく質のかたまりが脱脂加工大豆なのだ。梶田さんが矛盾を感じている、こうした現状もある。

岡田さんが握り、梶田さんの醤油でいただく至高のマグロ一貫

寿司の成り立ち、魚の獲り方、醤油の作り方について話があった後は、お待ちかねの握り一貫の試食タイム。魚は三崎恵水産のミナミマグロ、醤油は梶田商店のこいくち醤油で、お米は寿司専用のささしぐれだ。お米は、握りやすい粘りがあるほうがお米の良さを引き出せるという。

魚、米、醤油、お酢。全部を融合させておいしくなるように
握ってくれた岡田さんが、「どうしてもお米よりお魚が優位に立つのが握り寿司のイメージなんですけど、僕はお魚とお米は一対一の割合で考えていて、全部を融合させて美味しくなるように考えてます。お魚もお米もおいしく感じたいし、醤油の味も感じたい。そういう風にやらないと寿司職人の意味がなくなる」と話していたのが印象的だった。
 
発想の転換でお寿司屋さんを考えるワークショップ
おいしい試食の後はグループに分かれて、トークで聞いた内容も踏まえてのワークショップ。最もいい状況のお寿司さんと、絶対に行きたくない最低最悪なお寿司屋さんという両極端を各自で想像した後にディスカッションが行われた。この時に、進行役のFarmer’s Market運営スタッフの竹田潤平からある意外な切り口が提示され、各グループからはそれぞれマイナスをプラスに変えるような発想の転換をしたユニークなアイデアが発表された。
  

 
進化していく寿司を、一歩踏み込んで食べてみよう
イベントの最後にゲストが一言ずつ語り、岡田さんからは「いつも食べていていたような感覚より、一歩踏み込んでこれからお寿司を食べてみてください」というメッセージ。

石橋さんは、「どんどんどん進化していって、お寿司とお魚を面白くしていければ。同時に、低温加熱で作ったおいしいツナなど、いい魚でいい加工品を作っていきたい」という意気込みを語った。

真っ当なお醤油を作っていきたいという梶田さんは、「周りからはこだわってるって言われるけど、自分では全然こだわってると思ってなくて、むしろ自分がやっていることを当たり前にしていきたい」と話した。自分の体が何を食べてできているか、ということをより多くの人にほんの少しでも意識してほしい。そうなってくると世の中は変わってくる、というのが梶田さんの思いだ。

寿司は一貫の小さな食べ物で、シンプルなだけに普段は何気なく食べている人も多いだろう。こうして話を聞きながら食べることで、魚やお米を提供する方、その原料を使う方、うまさを引き出す醤油やお酢をつくっている方などいろんな方の力が合わさって出来ている食べ物だということを感じられるトークとなった。それぞれの良さは何だろうか、一つの寿司になった時に感じる味わいについても考えることができた。
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▼Farmer’s Market Community ClubではNORAH TALKを定期的に開催 *活動メンバーも随時募集中
Farmer’s Marketに集う農家さんを中心とした、NORAH(野良)的な感性を持つ多様なメンバー。時代や季節の変化に応じて、柔軟に生きること。自由な発想で自分の生業を生み出していくこと。日々変わる状況を楽しみ、力に変えていく。そんな生き方を実践しているのが、このFarmer’s Marketに集う人々です。

いま、10年目を迎えるFarmer’s Marketにおいて、農家さんを支え、共に学び楽しみ、農的暮らしの探求するためのコミュニティが必要だと考えました。その活動の中心となるのが、このFarmer’s Market Community Club。都市における農や食の新たな関わり方の提案の一つであり、実験の場でもあるFarmer’s Market。このムーブメントを更に発展させ、継続していくための、メンバーを募集します。
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