鶏も人間も、食べたものでできている|静岡の養鶏場・フォレストファーム恵里(メグリ)さんを訪れて

美味しさの土台

「鶏も人間も、食べたものでできているんですよ」

静岡県磐田市の養鶏場「フォレストファーム恵里」を営む中安さんは、そう語る。 

青山ファーマーズマーケットでは、中安さんが育てた鶏をその場で焼き上げる「焼き鳥」、自慢の鶏ガラを贅沢に使った「鶏ガラスープの十割蕎麦」、そして雑味のない旨味が凝縮された「卵」が並ぶ。 

その美味しさの土台となっているのは、中安さんが日々鶏たちに与える独自の食材をブレンドした発酵飼料だ。

養鶏では、輸入トウモロコシを主成分とした配合飼料を使うのが通例となっている。 それらは安価で栄養価が安定しており、現代の効率的な食肉供給を支える重要な役割を担っている。 

しかし、中安さんはあえてその効率性とは距離を置く。 管理の手間が数倍に膨らみ、出荷までの成長スピードが一般的なブロイラーの3倍(約150日)かかろうとも、自ら納得できる「味」を優先するためだ。 

「トウモロコシは手軽だが、どうしても脂が黄色くなり、特有の匂いの原因にもなる。僕はそれを取り除いて、自分の思う美味しさを追求したいんです」

そこで中安さんが選んだのは、「地域の未利用資源」を自ら集める方法だ。 地元のクラフトビール工場から届く麦芽かすや、菓子工場で出るアーモンド、カカオの絞りかす。 それらを独自に発酵させた飼料からは、穀物の香ばしい匂いが漂う。 

鶏の飲み水にも、かつて竹炭焼き職人だった経験を活かして竹酢液を混ぜ、腸内環境を整えている。 そのため、鶏舎には養鶏場特有の臭いもほとんどない。 「ナッツを食べた鶏は、脂まで香ばしい匂いになる。自分で納得したものだけを届けたいんです」

実際に卵を味わうと、その言葉に納得させられる。卵特有の生臭さがなく、旨味が純粋に凝縮されている。

品種ごとの歴史と性格に向き合う 

中安さんは、鶏の品種選びにも明確な基準を持っている。 

「品種ごとに歴史も性格も違う。それを理解して付き合うのが、養鶏の面白さです」

フランス生まれの黒鶏「プレノワール」は、美食の国で最高の肉質を目指して改良されてきた。 成長はゆっくりだが、その分深い旨味を蓄える。 

一方、オランダ原産の「ネラ」が産む卵は、殻が非常に丈夫で輸送に強く、中身がぎゅっと詰まっているのが特徴だ。 

日本で一般的に馴染みのある「ゴトウモミジ」は、非常に穏やかな性格をしている。

「この子たちは本当に穏やかですね。鶏同士で毛繕いし合うほど仲が良い。日本の四季の変化にも強く、生命力にあふれています」 

品種ごとの性質を深く理解し、鶏たちがストレスなく過ごせる関係を築くこと。

鶏舎に流れるこの穏やかな空気もまた、こだわりの味を生み出すための大切な要素なのだろう。

食べたものでできている 

中安さんは、自らエサをつくり、一羽一羽に気を配る道を選び続けている。 

「つくり手は説明が下手だから」と笑うが、そのこだわりは実際に味わえば言葉以上に伝わってくる。

「鶏も人間も、食べたものでできている」

効率だけを優先せず、20年かけて築き上げたこだわりの鶏と卵。 

その中には、中安さんが日々現場に立ち続け、命と向き合い、試行錯誤を繰り返してきた誠実な時間が詰まっている。

Info
フォレストファーム恵里(メグリ):〒438-0086 静岡県磐田市見付1720−107

Photos:Jun Kuramoto
Words & Edit:Hayato Yamane

 


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