なぜ土でつくるのか
「人柄が出るんですよ、土だと。」
そう話すのは、愛知県でいちご農園「美岳小屋」を営む林さんだ。
いちご栽培では、作業負担の軽減や生産性向上のために「高設栽培」が普及している。腰の高さほどの棚で栽培するこの方法は、作業効率の高さなどのメリットがあり、多くの農家で取り入れられている。
一方、林さんが選んでいるのは、苗を地面に植えて育てる「土耕栽培」。
土耕栽培は、決して効率の良い方法ではない。
高設栽培では培養土の配合や栽培環境を比較的コントロールしやすい。一方、畑の土で育てる場合は、その土地の条件に合わせた管理が必要になる。
「高設栽培はシステム化されている部分が大きいんです。培養土の配合や肥料の量も、ある程度は再現できる。でも土だとそうはいかない。」

畑ごとに土の状態は違う。日当たりや水分の残り方も場所によって変わる。だからこそ、林さんはハウスの場所ごとにマルチの色を変えるなど、細かな工夫をしている。
収穫の作業も簡単ではない。腰をかがめて作業を続ける姿勢は体にこたえる。美岳小屋の畑は粘土質で石も多く、台車での運搬も思うようには進まない。
その上で林さんは、土で育てる方法を選び続けている。
「人が出ると思うんですよ。土でやると。それに、土のほうが美味しいと思うんです。」
実際に畑で採れたいちご(「きぼうのいちご」と名付けられたいちごで、品種は「紅ほっぺ」)をいただくと、その言葉に納得する味わいだった。ただ甘いだけではなく、酸味もはっきりしていて、味が濃い。林さんの実直な力強さが、そのまま味に現れているような気がした。
「この土地でやっている、って言えるのもいいんですよね。」 この畑は、元々は林さんの祖父の土地だった。その土を大切に引き継いで、いちごを育てている。

いちご農家になるつもりはなかった
林さんは、もともといちご農家を目指していたわけではなかった。
「いちごをやりたかったわけでもないし、農薬不使用の農業をやりたかったわけでもないんです。ただ、簡単に再現ができない、つくり手の色が出るやり方に挑戦したかったんです。」
そこで色々と調べているうちに、近くで農薬・化学肥料不使用のいちご栽培に取り組み、成功している「農業生産法人みどりの里」を見つけ、研修することを決めたそうだ。
「それまで、いちごってそんなに好きじゃなかったんですよ。でもそのいちごを食べたときに衝撃を受けて。」
いちごは、こんな味になるのか。

それでも畑に立ち続ける
そんな経緯で始めた農業だが、思うようにいかないことも多い。
数年前、美小屋ではハウス二棟分のいちごが虫にやられ、全滅してしまったことがある。 その年は損失を補うために、昼は畑に立ち、夜は別の仕事をしていたという。
「一日20時間くらい働いてましたね。」
それでも畑を手放そうとは思わなかった。
「僕はこの農法で、このいちごを作っている。」
それを食べて「おいしい」と言ってくれる人がいる。
「その人に応えたいんですよね。」
派手なことではないが、畑に立ち続ける理由はそこにある。 効率だけを考えれば、別の方法もある。 それでも林さんは、土で育てるいちごづくりを続けている。 それは単なる栽培方法ではなく、この土地と向き合い続けるという選択でもある。 畑に立ち続ける人の姿が、その味をつくっている。

Info
美岳小屋:〒470-0205 愛知県みよし市三好丘緑四丁目7番地1
Photos:Jun Kuramoto
Words & Edit:Hayato Yamane