いいお米に、直向きに。福島・米乃内山さんを訪れて

会うと元気をくれる人ー「米乃内山」の内山耕一さん・ゆみさんご夫婦は、私たちにとってまさにそのような方。ファーマーズマーケットでお会いするのは月に一度あるかないかですが、明るくエネルギッシュなお人柄と美味しいお米にいつも心を惹かれていました。
いつか田んぼにお邪魔したいと思いながらも、なかなか都合がつかず見送ってきましたが、2025年7月にようやくその念願が叶うことに。東京から北へ車を走らせること約3時間。車窓から広がる景色が田園風景に変わると、福島県南部にある天栄村に到着します。
 
「よく来たね!どうぞ中に入って!」
いつもと変わらぬ笑顔で出迎えてくれた内山さんご夫婦。東京では素敵な装いでいつも販売されていますが、作業着姿はまた違った魅力があり新鮮に映りました。

 

「いいもの、美味しいもの」を作りたい

 

さっそく、ご自宅に併設された倉庫へ。精米機やたくさんのお米がならびます。

 
山々と川に囲まれた天栄村。この地で、内山家は江戸時代から代々農家を営んでおり、耕一さんは現在7代目。父・正勝さんの代から本格的に米作りが始まり、当初は農協への出荷が中心でしたが、耕一さんの代から少しずつ自分で販路を開拓するようになりました。
 
ゆみさん:「私は天栄村の出身で、人と話すのが好きだから、マーケットへの出店にも興味がありました。県内でもいいかなと思っていたけど、耕一さんが『出るなら絶対に関東がいい』と言うから。インターネットで青山ファーマーズマーケットを見つけて、実際に会場にも足を運んで、満を持して出店の申込をしました」
 
今では東京に多くのお客さんを持つ内山さんですが、出店当初はまだつながりも少なく、売れ残りを多く抱えることもあったそう。県外での販売にあまりいい顔をしていなかった正勝さんには、在庫を隠しながら帰ったこともあったとか。
 

壁にはこれまで受賞してきた数々の賞状が。

 
耕一さん:「一年くらい定期的に出店を続けたら、在庫も残らなくなりました。今では出店が両親にとっても当たり前になっています。自分たちのHPのアクセスや注文も増えてきて、最近では、青山で購入してくれた台湾の方からもご注文をいただいて。少しずつ結果につながって嬉しいです。」
 
現在は商品の大半を、自ら開拓した販路で販売しているという内山さん。一見順調そうにも見えますが「作ることはできても、売ることが一番難しい」と販路維持の難しさを実感しているようです。
 
ゆみさん:「ファーマーズマーケットに来る人たちは、みんな一生懸命『美味しいもの』を探しているから、私たちも『裏切っちゃいけない、ちゃんとしたものを作ろう』という気持ちになります。お客さんからはすごく刺激をもらっていて。ずっと田んにいると、どうしても地元の話ばかりになっちゃうから」
 
耕一さん:「でも、ゆみさんは喋り出すと止まらないから、そういう日は売上があまり伸びないよね(笑)」
 
 

美味しさと、未来に残す風景を求めて

内山さんの代表的なお米といえば、農薬の使用を通常の半分に抑えた「特別栽培米・沖田米コシヒカリ」と、農薬や化学肥料に頼らない「有機栽培コシヒカリ」。そのほか、甘みと粘りが特長の「ゆうだい21」「ミルキークイーン」、もち米の「こがねもち」など幅広く育てています。

 

田んぼの面積は、なんと約83反(約8.3ha)!東京ドーム約1.75個分にも及ぶ広大な田んぼを、耕一さん・ゆみさん、そして正勝さんご夫婦の4人で管理しているというから驚きです。
 
周辺では高齢化に伴い「田んぼを代わりにやってほしい」という声が多く、毎年少しずつ管理する面積が増えているとのこと。耕作放棄地の増加という日本の農業が抱える課題に、まさに肌で感じながら向き合っているのです。
 

 
豊かな水と肥沃な土地に恵まれた天栄村は、古くから米作りが盛んな地域。正勝さんが仲間と立ち上げた「天栄米栽培研究会」では、日本一のお米を目指し、毎月欠かさず勉強会を開催し、品質の向上だけでなく、環境に配慮した栽培にも力を入れています。
 
たとえば、「有機栽培コシヒカリ」は、紙マルチと呼ばれる田んぼに溶ける資材を田んぼ全体に敷いて雑草を抑え、栽培期間中は農薬や化学肥料を使用しません。手間も時間もかかり、収量も通常の3分の1ほど。それでもこの方法に取り組むのは、「美味しいお米を届けたい」「天栄村の景色を未来に残したい」という思いがあるから。今年は、自家製の肥料作りに挑戦するとのこと!今後も内山さんの挑戦は続きます。
 

訪問したのは7月下旬。5月初週に植えた「こがねもち」が、ちょうど稲穂をつけはじめた頃でした。これから他の品種も穂をつけ、9月半ばに収穫の時期を迎えます。

 

稲刈り前、田んぼは一面が黄金色に染まり、小高い場所からの景色は圧巻で、ゆみさんのお気に入りスポットでもあるそう。

 
自然豊かな天栄村の風景を愛し、「美味しいお米を届けたい」という思いを胸に、まっすぐに米作りに向き合う内山さんご夫婦。スーパーには様々なお米がならびますが、「この人から買いたい」と思えることは、実はとても贅沢で幸せなことなのかもしれません。
 
次回のファーマーズマーケットへの出店は、10月25日(土)。今年の新米を味わえるのはもうすぐです。

 

ファーマーズマーケット出店時に必ず置いてある看板。実は、古時計をリメイクしたもの。古物好きだというお二人の出店ブースは、骨董品屋さんで見つけてきたものや、自然の素材を生かしたもので飾られています。

 


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