秋田銘醸株式会社(秋田県)

秋田銘醸株式会社(秋田県)

インタビュー

秋田銘醸の8代目社長・京野學さん

 

秋田銘醸の創業は1922年(大正11年)、今年でちょうど100周年を迎えました。その成り立ちは少し特殊。酒蔵のある秋田県湯沢は美味しい米と水に恵まれ、江戸時代から酒造りが盛んに行なわれてきました。しかし創業当時はまだ知名度が低く、全国的にはあまり評価されていませんでした。そこで秋田の美酒を全国に広めようと、県内の主な酒造家や政財界人が集まって立ち上げたのが秋田銘醸。品質のよい酒を大量生産できる近代企業としてスタートしました。

現在、8代目社長を務める京野學さんの祖父、京野利助さんは政治家、創業メンバーの1人。爛漫は第二次世界大戦までは順調に売上を伸ばしていきました。しかし戦争に突入すると企業整備や食糧統制などで多くの酒蔵が廃業に追い込まれることになり、秋田銘醸の株主たちはみな株を手放したそう。そんな状況のなか、たった一人の常勤役員だった利助さんは私財を投げ打って株を買い取り、爛漫と秋田銘醸を守ったといいます。

學さんが兄である京野勉さんの跡を継いで社長に就任したのは昨年のこと。それまではホテル経営に専念していました。ホテルはいわば酒を売る側。その経験を活かして、酒造の経営に取り組んでいます。

「自分で言うのも何ですが、高齢化社会のシンボルのように70代で社長になりました(笑)。約40年間外から秋田銘醸を見てきて、もっとこうしたらいいのに……と歯がゆい思いをしたこともありました。そんな経験も参考にしながら、皆さんに飲んでいただけるお酒を造っていきたいと思っています」。

 

オススメのお酒

種類豊富で受賞歴あまたの“美酒爛漫”のなかから自社田で栽培した酒米を使った2つのお酒をご紹介します。

 

香り爛漫 純米吟醸

【特長】

自家栽培した「秋田酒こまち」のお酒。酵母は秋田県が開発した、薫り高い「こまち酵母スペシャル」を使用。火入後急冷貯蔵し、華やかな香りとフレッシュな味わいに仕上げています。

「全国燗酒コンテスト2022」お値打ちぬる燗部門金賞、「ワイングラスでおいしい日本酒アワード 2019・2022」メイン部門金賞、「全国燗酒コンテスト2020」お値打ちぬる燗部門最高金賞受賞、「全国燗酒コンテスト2017」お値打ちぬる燗部門金賞、「IWC2017」SAKE部門シルバーメダル受賞。

 

【ペアリングするなら……】

原料米の旨さを十分に引き出したフルーティーな香りとフレッシュな味わいは食中酒にぴったり。ワイングラスで飲むと味わいと香りがさらに広がり、食事がより楽しめます。夏はキリッと冷やしてお刺身や白身魚のアクアパッツア、岩ガキなどと。冬は常温かぬる燗できりたんぽ鍋などとどうぞ。

【特長】

秋田県が開発した新しい酒造好適米「百田(ひゃくでん)」と「一穂積(いちほづみ)」を使った新商品。爛漫が栽培から醸造まで一貫して行った初の純米酒。自社田、酒蔵、蔵人の和……、日本酒テロワールが生み出したお酒です。

「萌稲」というネーミングには爛漫初の試みに「萌え出る稲の穂」のイメージを重ねて名付けたそう。キュートな格子柄のラベルは。四季折々で表情を変える、湯沢の豊かな田園風景をイメージしています。

 

【ペアリングするなら……】

「百田」は山田錦の孫にあたり、山田錦ゆずりの芳醇な旨味とふくらみのある味わいが特徴。マグロやカンパチ、ブリなど、濃厚なお刺身がよく合います。

「一穂積」は秋田酒こまちと、山田錦と五百万石を親にもつ新潟の越淡麗を掛け合わせたお米。淡麗で米の甘味とほどよい酸味が絶妙なバランス。肉料理や中国料理など、味の濃い料理によく合います。

 

「農」が教えてくれたこと

 

米作りを始めたきっかけ

田植えに励む自社メンバー

 

秋田銘醸が自ら酒米の栽培を始めたのは昨年から。理由は2つあります。

1つは酒の原材料となる酒米の確保のため。高齢化と後継者不足により農業は衰退するばかり。湯沢は秋田を代表する酒米の産地で、行政も「酒米の里・ゆざわ」と掲げて農業振興してきましたが、酒米農家は減る一方。「米が獲れなくなったらお酒は造れないので農業は生命線。なんとか酒米の里を復活させ、継続させていきたい」という切羽詰まった事情があるのです。

もう1つの理由は「湯沢の風土を活かし、自分たちの米でつくった、湯沢でしか醸せない酒を造ってみたい」という酒造家としての酒質改善へのあくなき欲求から。この2つの想いが相まって酒米づくりをスタートさせました。

「米づくりは苦労もありますが、それで酒が造れて、ふるさとの一番大事な産業である農業が守れるなら一石二鳥、三鳥です」。

 

「農」といえる酒蔵としてできること

社員はみな農家出身でもともと農事暦が頭に入っているのだとか。社内に「農業生産課」を設け、課員を中心に夏は田んぼに出て米作り、冬は蔵に入って酒造りを行っています。

自分たちで米造りをして気付いたことは「自分で育てた米は特別かわいい」ということ。より大事に米を扱うようになったといいます。例えば精米1つとっても、乾燥具合は? 水分量は?と「生まれたての子供をお風呂に入れるような感じ」で丁寧に行うようになったのだとか。精米歩合が低いほど高価な日本酒ですが、手塩にかけて育てた我が子だけに「削り過ぎたらもったいない」という気持ちも出てきたそう。「萌稲(モネ)」シリーズは精米歩合70%。30%しか削らなかった理由はそういうことなのです。

 

テロワールからドメーヌへ

學さんはワインの言葉に例えて「ドメーヌを追求したい」と言います。日本酒の世界でもよく使われるようになったワイン用語に「テロワール」という言葉がありますが、こちらはワインの個性を決定づけるブドウの生育地の気候や土壌、地形など、周辺環境のすべてを指すのに対して、ドメーヌはブドウの栽培から醸造、熟成、瓶詰めまで行う生産者のこと。秋田県湯沢は酒米の生育地としてのテロワールは申し分なし。さらに徹底して「自分たちの土地で栽培した米を使って、自分たちで醸造・熟成して、自分たちで瓶詰めすることがこれからは大事。ドメーヌワインのブドウ畑は小さくて少量生産なことが多いのですが、酒米はある程度大きな面積でつくれるので、皆さんに喜ばれるお酒を、お手にとりやすい価格で提供できると思います」

 

地域の自然と農業を守るために

鳥海山の前に広がる広大な自社田

 

現在自社田は8町歩ほどで、米の生産量は使用する全体の10分の1ほどなのだとか。ドメーヌを追求するには自社田を増やさなければなりません。しかしそれが実現するということは、耕作を放棄する農家の増加を意味します。

「悲しい現実のもとに立っているんです。ただ、小作料をお支払いして、農機具を買い取らせていただいて米をつくれば、休耕田を無くすことができます。田んぼは一度休耕田にしてしまうと死んでしまうんです。害虫が発生したり、雑草が生えたりして自然環境にも様々な弊害があります。休耕田が広がる風景は、町のシャッター商店街以上に寂しい。環境保全、地域保全の意味でもなんとか田んぼを休ませないで働かせたい。離農されるのは悲しいことですが、私たちが及ばずながら田んぼを引き受けて地域の自然と農業を守っていきたいと思っています。まさに“農!と言える酒蔵”です(笑)」。

 

10年先の未来へ ~ネクストビジョン~

トンボが飛び交うようになれば収穫も間近

 

「年に1度のものを造っている我々にとって10年はすぐ明日のことです。湯沢の風土で育まれた米を使って酒を造り続けること。それを100年続けていけたらありがたい。田んぼにきれいな水が張られて、緑色の稲穂がゆれて、カエルの声が聞こえて……という自然環境を100年先にも残したい。そのためにはお酒を飲んでいただかなければなりません。どうしたら皆さんに飲んでいただけるのか、全社員一丸となって考えています」と學さん。

最終的に農の未来を担ってるのは、実はお酒を飲む私たち消費者といえるのかもしれません。

 

8代目社長からのメッセージ

秋の夕暮れと自社田

 

「美酒爛漫のテレビCMに『ならんで、酔いたい。美酒爛漫』というコピーがあります。日本酒は人と人とが和らぎと安らぎを深めるもの。コロナ禍においてはそれもままなりませんが、早く収束して並んで酔える日が一日も早く訪れることを祈っております」。

 

【Info】

秋田銘醸株式会社

一部の商品で送料無料キャンペーン実施中です。ぜひ一度公式HPを覗いてみてください。

住  所|秋田県湯沢市大工町4-23
アクセス|奥羽本線湯沢駅から徒歩15分
電話番号|0183-73-3161
営業時間|見学受付 9〜11時、13〜16時(土曜午後、日曜、祝日は定休日)