秋田清酒株式会社(秋田県)

インタビュー

秋田清酒の6代目・伊藤洋平さん

 

秋田県大仙市にある秋田清酒の歴史は江戸時代末期の1865年に遡ります。現在代表取締役をつとめる伊藤洋平さんは蔵元としては6代目、伊藤家当主としては18代目にあたります。

伊藤家はもともと地主農家で、12代当主の伊藤重四郎さんが自分の田んぼで穫れた米の一部を使って酒造りを始めたのが始まりです。

その後、明治時代の1913年に13代目当主の伊藤恭之助さんが酒造りを家業の中心に据えて、株式会社化しました。恭之助さんは秋田県酒造組合連合会会長として県の醸造試験場も設立。秋田県の日本酒の発展に尽力したほか、馬の生産や農地開墾などにも力を入れ、地元の農業振興に貢献したそうです。

酒蔵は「出羽鶴蔵」と「刈穂蔵」の2つがあり、それぞれ異なる酒造りを行っています。

自社で栽培した米を使って酒造りしているのは主に「出羽鶴蔵」。「出羽鶴蔵」では米と米麹と水だけを使い、「秋田流生酛仕込み」で純米酒を醸しています。

「秋田流生酛仕込み」とは秋田に伝統的に伝わる製法で、米と米麹と水を電動ドリルで細かく砕いて、低い温度でじっくり期間をかけて発酵させて酒母を造ります。そうすることで存在感のある酸味と米の旨みが感じられる美味しいお酒に仕上がるのです。

 

オススメのお酒

「出羽鶴蔵」で醸されたお酒のなかから2種類をご紹介します。「出羽鶴蔵」の仕込み水は出羽丘陵に降る雪や雨が地下に浸透し、地層を透過しながらゆっくり時間をかけて育まれた天然の湧き水。清冽でやわらかいため、お酒もなめらかで飲みやすいのが特長です。

 

やまとしずく 純米吟醸 美郷錦

【特長】

「やまとしずく」は1994年に秋田県内の有志の酒販店とともに立ち上げたブランドで、取引先限定の希少なお酒です。ネーミングの由来は伊藤家の屋号が「ヤマト」で、創業当時「ヤマト酒造店」と名乗っていたから。創業当時の精神と酒造りを受け継ぎ、地元の米と水だけを使った、地域性と個性のはっきりした美味しいお酒を造ろうというコンセプトで誕生しました。

自家栽培した秋田県オリジナルの酒米「美郷錦」を使用し、精米歩合は50%。10℃くらいに冷やして飲むと味が冴えて美味しいです。

 

【ペアリングするとしたら…】

味の輪郭が鮮やかで後味軽快、キレもあるお酒なので、クセのない白いチーズや爽やかな酸味のカルパッチョなどとベストマッチ。おでんなど上品に出汁のきいた温かい和食とも相性抜群です。

 

出羽鶴 自然米酒 松倉

【特長】

農薬や化学肥料を一切使わずに自家栽培した酒米「秋田こまち」を使用しています。

「自然農法は収量が少なくなりがちですが、発酵力が強い気がします。科学的に根拠があるのかわかりませんが……」と伊藤さん。発酵が順調で、美味しく仕上がっているそうです。

精米歩合は60%。過剰に磨いていないので、しっかりと深みのある味わいのなかに綺麗な旨味や酸味も感じられます。

 

【ペアリングするとしたら…】

しっかりとした味わいなので、味の濃い鍋料理やローストビーフなどの肉料理と好相性。特に秋田県大仙市の名物「川がにみそ」との相性は抜群です。

 

「農」が教えてくれたこと

米作りを始めたきっかけ

 

秋田清酒が自社に「農業事業部」をつくって本格的に米作りを始めたのは3年ほど前から。しかし約25年前から地元農家とともに米作りを行っていました。「良質な酒米から美酒が生まれる」という信念のもと酒米栽培会を設立し、農家と蔵元が意見を交換をしながら栽培技術を磨き、酒質向上につながる酒米作りに努めてきたのです。

しかし近年は高齢化と後継者不足で、米作りをやめる農家が増えているそう。うるち米(食べるお米)は刈り取り後の脱穀や乾燥調製などの作業を農協に依頼してやってもらうことができますが、酒米はそれができないため設備はすべて自前。メンテナンスにもコストがかかるため、機械の故障とともに離農する酒米農家も多いのだとか。「今のうちに体制を整えておかなければ間に合わない」という危機感から米作りを始めたのです。

 

地元の米「陸羽132号」の復活

自社で栽培している主な酒米は秋田ブランドの「三郷錦」と「陸羽(りくう)132号」。

「陸羽132号」は100年ほど前に蔵のある秋田県大仙市で開発されたお米で、人工交配で改良された日本初の品種なのだとか。今でこそ栽培されていませんが、当時としては冷害に強い画期的な品種だったようで、農業の指導者でもあった作家の宮沢賢治が推奨した記録も残っているそうです。「せっかく地元で開発されたお米なのだから」と「陸羽132号」を復活栽培して酒を醸してみたところ、これが新しい米には出せない味わいでおいしいのだとか。

「昔のお米なので派手さはないのですが、素朴で綺麗な透明感があって美味しくてついつい飲んじゃう」お酒です。

「陸羽132号」のお酒は「やまとしずく」ブランドで展開していますが、残念ながら完売してしまったそう。新酒の出来上がりを楽しみにお待ちください。

 

「農」で変わった酒造り

現在、自社で栽培している田んぼは1町ほど。まだ割合としては多くありませんが、「米作りの楽しさも難しさも感じている」と伊藤さん。手塩にかけて育てたお米だと、「酒造りにも、より気持ちが入る」といいます。

酒米は同じ品種であっても毎年コンディションが変わるため、良い酒を造るためにはそれに応じた対応が必要。自社で栽培することによって 酒米の生育環境や成長プロセスがわかるので、精米や洗米、蒸米などもより適切な状態で行えるようになったそうです。最近は西日本の酒米として知られる「山田錦」の栽培にも挑戦しています。

「温暖化の影響で秋田も夏が暑くなり、そこそこ収穫できるようになってきました。安定的に穫れるようになったらお酒のバリエーションも増えて面白いかなと思っています」。

 

10年先の未来へ ~ネクストビジョン~

「秋田清酒」は環境に負荷をかけない酒造りと米作りにも力を入れています。酒造りは意外と熱源が必要で、電気や化石燃料が欠かせないのだとか。

「環境負荷を減らすため、米を過剰に磨かない酒を造るようになりました。それによってCO2の排出量を減らして、お米を有効に使うことができます。ポップアップバーにはそんなお酒もお持ちするので、ぜひお試しください」。

米作りでは農薬や化学肥料を減らし、ゆくゆくは一切使わないことを目標にしている。

「米作りは土づくり。うちは始めたばかりで偉そうなことは言えませんが、土を育てられれば余計なものを使わずに米作りはできます。研究がすすみ、科学系のものがなかった古来の農法が合理的であることがわかってきています。持続可能性を求める世の中の流れのなかで、米作りや酒造りもそちらの方向に向かっていく気がしています」。

 

酒蔵からのメッセージ

生酛仕込みの純米酒というと構えてしまう人もいるかもしれませんが、お客様に喜んでいただくため、伝統的ななかにも新しい味にも挑戦しています。米の旨味が感じられる厚みのある味わいのものや、フレッシュな生のお酒など、秋田流生酛仕込みでできる様々なお酒のバリエーションをご用意しています。アルコール度数も15%程度と、日本酒としては低めに仕上げていて飲みやすいので、ぜひ一度飲んでいただいて好きになっていただけたら嬉しいです。そして秋田の環境や風土を思い浮かべながら飲んでいただけたら何よりです」。

 

【Info】

秋田清酒

「出羽鶴酒造」と「刈穂酒造」の”兄弟蔵”を運営。それぞれの個性を活かした秋田らしい酒造りを行なっている。二つの蔵の日本酒を飲み比べてみるのも楽しい。

住  所|秋田県大仙市戸地谷字天ケ沢83-1
アクセス|秋田新幹線大曲駅からタクシーで10分
営業時間|10時〜17時(土曜 10時〜15時、日祝は休業)