株式会社西岡本店(茨城県)

インタビュー

西岡本店の八代目当主・西岡勇一郎さん

 

関東平野にそびえる筑波山。その北の麓にある、茨城県桜川市真壁町で天明2(1782)年から酒造りをしているのが、西岡本店です。筑波山の一帯には花崗岩地帯が広がっており、その下を流れる水はほどよいミネラルを含みます。また、筑波山から吹きおろす季節風「筑波颪(つくばおろし)」が、冬の寒さと冬と夏の寒暖差を作り出し、よいお米を育みます。

西岡本店が造るのは、代表銘柄の「花の井」をはじめ、そんな水とお米だけを使った純米酒のみ。「私たちは筑波山の恵みでお酒造りをしているんです」と八代目当主の西岡勇一郎さんは話します。

蔵を代表する日本酒「花の井」。その名前の由来は、創業の地にあった井戸のたもとに植わり、しだれていた桜の美しさから。

「私たちのご先祖は滋賀県の近江商人で、『桜谷村』に住んでいたそう。その後、江戸時代に移り住んだこの地の旧名は『真壁町桜井』といいました。そして、両方の場所に『桜川』が流れていたんです。きっと桜にご縁を感じていたのでしょうね」と西岡さん。

 

オススメのお酒

 

西岡本店を代表する「花の井」には、さまざまなバリエーションがあります。

定番としては、熟成したしっかりとした味わいの日本酒が、幅広い料理の味とマッチする「花の井 熟成純米酒 鳥獣戯画ラベルシリーズ」をご紹介します。

また、もうひとつご紹介する「花の井 古代米のお酒~アヒル農法米使用~」は、日本酒としては珍しい甘口のお酒です。

 

花の井 熟成純米酒 鳥獣戯画ラベルシリーズ

【特長】

西岡本店が提案する日本酒の楽しみ方は、「熟成したお酒を食事とともに楽しんでいただきたい」。それを体現するのが、地元産の米を使い、1~2年熟成した純米グレードの「花の井 熟成純米酒 鳥獣戯画ラベルシリーズ」。

「兎ラベル」「蛙ラベル」「泥棒猫ラベル」「猪ラベル」(写真)の4種類で、いずれも地元にゆかりのあるお米を醸し、そのよさを引き出しています。

地元のイラストレーターが「鳥獣人物戯画」をモチーフに、動物などを“のんだくれ”に描いたラベルがなんともユーモラス。

純米大吟醸酒「兎ラベル」は地元の茨城県立真壁高等学校農業科と共同で作った「山田錦」を、純米吟醸酒「蛙ラベル」は茨城県オリジナルの酒米「ひたち錦」を、特別純米酒「泥棒猫ラベル」は酒蔵の地元・真壁町産「こしひかり」を、純米酒「猪ラベル」は茨城県産の米「日本晴」を使っています。

 

【ペアリングするなら…】

いずれも常温またはやや熱めのお燗がおすすめです。どんな食事にも合わせやすいお酒です。「兎ラベル」は焼き鳥(塩)、ソーセージなどの燻製をはじめ、香りが強いお料理と合います。「蛙ラベル」は和風の煮物や鍋物に合わせて。「泥棒猫ラベル」は揚げ物や中華料理、ポテトチップスなどにぴったりです。「猪ラベル」は、とくにトマトベースの料理との相性が抜群!

 

花の井 古代米のお酒~アヒル農法米使用~

【特長】

平安時代から続く茨城県桜川市の五所駒瀧神社(ごしょこまがたきじんじゃ)で収穫されたご神米(古代米)を使ったお酒。古代米は、農薬を使わないアヒル農法により栽培されています。

蜂蜜を思わせる優しい甘さと、それでいてサラッとした飲み心地が魅力。アルコール度数8%なので、気軽に日本酒を楽しみたい人や日本酒に不慣れな人にぜひ飲んでほしい品。やさしい甘さと、ほどよいアルコール度数を両立させるため特別な製法を新たに開発。

「若い方がお酒を飲むときに、チューハイやビールとともに日本酒も選択肢に入ってほしいと思い、開発しました。『日本酒ってこんなものもあるんだ!』と、そこから興味を持っていただけたら」と西岡さん。

 

【ペアリングするなら…】

サラミやソーセージ、ピザ、スナック菓子など、気軽につまめるジャンクな味わいとマッチ。食前酒としても楽しめます。

 

「農」が教えてくれたこと

酒米作りを始めたきっかけ

 

西岡本店が酒米作りを始めたのは、西岡さんが八代目を継いだ2012年。「自分が納得できる素材で、日本酒を造りたい」との思いからだったと言います。何より、地元産の米と地元の水で、地元の人がその土地の酒を造る、それが造り酒屋のあるべき姿だと考えたからでした。

「この土地へ旅行でいらした方々に、『町の自慢の品として、こんな酒があるよ』と胸を張って言えるようなものを作りたかったんです。その日本酒のラベルには、桜川市産や真壁町産、自社産という言葉があってほしい」と西岡さんは語ります。

最初は約10Rからはじめ、今は300Rほどの田んぼで稲を育てています。自社の田んぼのほか、「花の井 古代米のお酒~アヒル農法米使用~」に使う古代米は、農家と契約し、専用の田んぼで栽培。

米作りを始めて西岡さんは、米はその年ごと、その品種ごとに違った顔を持っていると改めて気づかされたと言います。従来の日本酒づくりの文化では、米が豊作でも不作でも、安定した味を求められてきました。

「逆に、そこは同じじゃなくていいんじゃないかと思うようになったんです。もちろん不作ならクオリティが下がってもよいという意味ではありません。毎年一生懸命お酒を造るけれど、毎年味が違っていても、それが個性なのではないかと思えるようになったんです」と西岡さん。

 

感謝を大切にしながらの米作り、酒造り

西岡さんは、蔵へ一歩入ればそこで仕事をさせてもらえることへの感謝を述べ、田んぼへ入れば米を育む気候風土などすべてに感謝すると言います。

米が不作だったり、麹のできが今一つだったりしたときも、感謝をして作業に打ち込んでいるなら、「お天道さまが決めたこと」と納得できる。しかし、感謝なくして惰性で作業した場合は後悔しか残らない――。自然や発酵などを相手にしてきた蔵人ならではの感覚がそこにはあります。

 

10年先の未来へ ~ネクストビジョン~

「ひと言で言うと、『自分の子どもたちの世代がこの町へ帰ってきたいと思える蔵』に育て上げたいんです。我々のような仕事は、常に世代間でバトンをつないでいるようなもの。もらったバトンをどうつなぐかを、限られた時間の中で考えています」と西岡さん。

そのためには真摯な酒造りだけではなく、町全体の活性化が欠かせません。西岡本店の敷地内にある国指定登録有形文化財の蔵をギャラリーにし、ライブなどを行っているのもその一環です。地元の人々が我が町を尋ねられたときに、「この町には『花の井』っていう名前のお酒の酒蔵があってね」と一言目に紹介してくれるような酒造り、蔵造りを目指しています。

「酒蔵という我々の業態は、その土地の伝統、文化、気候風土、そして人々に生かしていただいている。土地への感謝の意味も込めて、町を活性化したいんです」と、西岡さん。

酒造り、町作りの問題と切り離せないのが、農家の減少です。人手が不足すると、よい米を作ってくれる人も減ってしまいます。地元の人材育成につながればと、「花の井 純米大吟醸酒 兎ラベル」や「純米吟醸原酒 明笑輝」など一部商品に、地元の茨城県立真壁高等学校農業科が作る山田錦やコシヒカリを使っています。

 

蔵元からのメッセージ

「西岡本店の日本酒は主役ではなく、名バイプレイヤーのように食事に寄り添うお酒でありたい。食文化の一環として楽しんでほしい」。西岡さんはそう願っています。ひと昔前の「悪酔いする」「飲んで行動が乱れる人が多い」といった日本酒のイメージを払しょくし、若い人も含め、多くの人に楽しく健康的な飲み方を提案していく。そんな思いで日本酒を造り、酒蔵文化を発信しています。

 

【Info】

西岡本店

敷地内には、国指定登録有形文化財の土蔵造りの蔵があります。「お客様をお迎えできる蔵でありたい」という西岡さんの思いから、ここにはショップと、ライブなどが行われるギャラリー&イベントスペースが。ショップでは、酒造りに携わるスタッフの接客のもと、販売されているすべての日本酒を試飲・購入ができます。

住  所|茨城県桜川市真壁町田6-1
アクセス|JR水戸線岩瀬駅からタクシー約20分。JR水戸線岩瀬駅から桜川市バス やまざくらGO「旧真壁小学校前」バス停より徒歩2分
営業時間|8時-17時(ショップ・ギャラリーは9時-16時)土日祝、年末年始・お盆期間は休業。10月~3月は土曜日営業