合資会社大和川酒造店(福島県)

インタビュー

大和川酒造店の10代目当主・佐藤雅一さん

 

福島県喜多方にある大和川酒造店は、江戸時代中期の1790年(寛政2年)創業。2022年7月に社長に就任した佐藤雅一さんは10代目当主にあたります。

「地の水、地の米、地の技術」をモットーに、飯豊山(いいでさん)の清冽な伏流水を仕込み水に、その水で育てた米と、代々杜氏の一途な心意気で数々の銘酒を生み出しています。

現在、酒造りは1990年(平成2年)に新設した「飯豊蔵」で行っており、それ以前に使用していた酒蔵は「北方風土館」として活躍しています。江戸時代に建てられた「江戸蔵」、明治時代に建てられた「明治蔵」、昭和時代に建てられた「昭和蔵」から成り、見学コースになっています。唎酒コーナーや売店もある知る人ぞ知る喜多方の観光スポットです。さらに「昭和蔵」はファーメントホールとしてコンサートや講演など、地域の皆さんの文化活動などに使われているそう。「地域社会への貢献」は大和川酒造店が大切にする理念の1つなのです。

大和川酒造店の長い歴史の中で、代々言い伝えられている言葉は「当主が生きている間に3つのことが起こる。恐慌、戦争、自然災害に備えよ」。リーマンショックやロシア・ウクライナ戦争、東日本大震災など……近年の世界情勢を見渡せば、この言葉の重みがよく分かります。

佐藤雅一さんの父で9代目当主の佐藤彌右衛門さんは、2011年に起きた東日本大震災による福島第一原発の事故を受けて、「未来に向けて原発に頼らないエネルギーを模索しなければならない」と地元の有志とともに2013年に会津電力株式会社を設立。未曾有の大災害のなかでも素早く動けたのは、代々の教えがあったからなのでしょう。

「酒造りには電気だけでなく、ボイラーを動かすための重油も必要なので、バイオマスボイラーなどへの切り替えも検討しています。『地の水、地の米、地の技術』に『地のエネルギー』も加えて、うちの特徴としていきたいと思っています」と佐藤雅一さん。

 

オススメのお酒

大和川酒造店が2007年(平成19年)に立ち上げた農業法人「大和川ファーム」で栽培した福島ブランドの酒造好適米「夢の香」を使ったお酒を紹介します。

 

純米辛口 弥右衛門

【特長】

大和川酒造店の一番人気。精米歩合は60%。冷でも常温でも楽しめますが、お燗は特におすすめ。「全国燗酒コンテスト2022」の「お値打ち燗酒 ぬる燗部門」で最高金賞を受賞しています。

 

【ペアリングするとしたら…】

柔らかい飲み口で後味さっぱり。リーズナブルでどんなお料理にも合うので、夕飯のおかずを肴にお楽しみください。

 

純米大吟醸 四方四里

【特長】

四方四里(しほうしり)という名前の由来は、仏教の「身土不二」という教えから。人間と土地は切っても切れない関係にあり、生まれた土地でとれたもの、なかでも四方四里(16km四方)でとれたものを食べるのが最も健康に良いとされているのだとか。大和川酒造店の蔵の四方四里でとれた米も水と技術で仕込んだお酒です。

 

【ペアリングするとしたら…】

華やかな香りで、純米大吟醸ですが米の味もしっかり残っています。淡泊な白身魚やいか、たこのお刺身などに合わせて、香りと味をお楽しみください。

 

「農」が教えてくれたこと

喜多方の美しい山々を望む自社圃場

 

米作りを始めたきっかけ

大和川酒造店が農業法人「大和川ファーム」を立ち上げたのは、もともと「酒の仕込み水と同じ水で育った米でお酒を醸したい」という想いがあったから。またそれと同時に、「地元の農業の課題を解決しなければならない」という使命感もありました。

【特長】

四方四里(しほうしり)という名前の由来は、仏教の「身土不二」という教えから。人間と土地は切っても切れない関係にあり、生まれた土地でとれたもの、なかでも四方四里(16km四方)でとれたものを食べるのが最も健康に良いとされているのだとか。大和川酒造店の蔵の四方四里でとれた米も水と技術で仕込んだお酒です。

 

【ペアリングするとしたら…】

華やかな香りで、純米大吟醸ですが米の味もしっかり残っています。淡泊な白身魚やいか、たこのお刺身などに合わせて、香りと味をお楽しみください。

 

「農」が教えてくれたこと

 

「農業をする人が減っていて、今後も耕作放置地や離農者は増えていくはず。地元の農業を守るためにも農業法人としての規模を大きくしていきたいと思っています。社会の課題を解決する存在でありたいです」と佐藤雅一さんは言います。

 

農業法人での米作り

農業法人「大和川ファーム」では酒造りで発生する米ぬかや酒粕などの有機副産物を利用して肥料や土をつくる“循環型の農業”を行っています。55町の田んぼでは、酒米だけでなくうるち米も栽培。現在酒造りで使用する酒米の7割を自社で賄っています。残りの3割は従来からお付き合いのある地元の農家から購入しているもので「完全にゼロにはできない」と佐藤雅一さん。「農」といえる酒蔵としては、現在残っている農家が農業を続けられるように守っていくことも大切なことなのでしょう。

 

「農」で変わった酒造り

栽培から収穫、乾燥、精米にいたるまで、すべての工程を自社で行うため、米の品質が手に取るようにわかるようになり、酒造りにおいてより緻密な水分調整などを行うようになったそう。「大和川ファーム」の前身である「ふれあいファーム」の時代からカウントすると、大和川酒造店の米作りの歴史は約30年に及び、それととも酒の味も向上しているといいます。

「確実においしくなっているという実感があります。しかしそれと同時に生産量も増えていて、大きな田んぼで育つすべての米の品質を同じレベルに保つ難しさを感じてます」

 

10年先の未来へ ~ネクストビジョン~

酒造りを行う「飯豊蔵」

 

代々伝わる「当主が生きている間に3つのことが起こる。恐慌、戦争、自然災害に備えよ」という家訓にのっとって、10代目当主の佐藤雅一さんが現在行っている対策は、再生可能エネルギーを使った酒造りと農業法人のさらなる充実です。

「再生可能エネルギーを使った酒造りは直近の目標です。地の水、地の米、地の技術に地のエネルギーを加えている酒蔵は他にないと思いますから。さらにその先を考えると、今後も日本酒が飲まれていくかどうかは微妙。現在のタバコのように、いつ飲まれない時代が来てもおかしくないと思っているので、今のうちにできることをしていかなければいけないと思っています。農業法人はその手段の1つでもあります。農業は日本人にとって欠かせない産業です。米を使って酒を造る商売をやっているからこそ、農業を途絶えさせるわけにはいかない。そのためにも農業法人の基盤を盤石なものにしていかなければならないと思っています」

 

酒蔵からのメッセージ

 

「私が2005年(平成17年)にUターンして蔵に戻ってきた頃は焼酎ブームで、日本酒が全く飲まれなくなっていて、『日本酒はやばい』と言われていました。いかにして飲んでもらおうかと考えているさなか、2011年には福島第一原発事故の風評被害……。喜多方は地盤が固くて蔵に被害はなかったので、復興支援を兼ねて福島県内の各自治体と組んで、その土地の米を使ってお酒を醸したりもしました。当時は自社米を使うことや酒の味にこだわるよりも“大和川酒造の立ち位置”をお話して買っていただいた感じです。風評被害で牛乳が売れなくて困っていた、いわき市の牛乳屋さんとコラボしてヨーグルトリキュールを作ったりもしました。いまも『夜ぐると』という名前で販売しています。震災から10年以上が経過し、いつまでも復興復興と言っている場合ではないし、復興できている部分も多いのですが、福島のお酒を飲んでいただけたら嬉しいです。若者の酒離れが叫ばれていますが、実はおいしい日本酒を飲みたいと思っている若者はけっこういると思う。ぜひ大和川酒造のお酒をお試しください」

 

【Info】

大和川酒造店

創業以来、会津喜多方の厳しい気候にも耐えることのできる酒造りを行なっている「大和川酒造店」。昔の酒造りの様子が見学できる「江戸蔵」や、酒を貯蔵するには絶好の環境であった「大正蔵」、各種イベントに使われるファーメントホールとして利用されている「昭和蔵」を有する「大和川北方風土館」は、地域住民の交流拠点としても活用されている。

住  所|福島県喜多方市字寺町4761
アクセス|磐越西線喜多方駅から徒歩12分
営業時間|9時〜16時30分