東京 / Ome Farm

東京 / Ome Farm
栽培方法 水耕栽培 土耕栽培
肥料 化学肥料 有機肥料(購入) 有機肥料(自家製) 無肥料
雑草対策 除草剤 手刈り 放置 その他
病害虫対策 殺菌剤 殺虫剤 手潰し その他
種苗会社より購入 自家採種

【instagram】https://www.instagram.com/omefarm/
【HP】https://www.omefarm.jp/

農業者出身はゼロ。これからの日本の食と農業を担う、小さく、強い農業チーム。

アパレル、メッセンジャー、画家。元々は全く農業とは別の業界で働いていたメンバーから構成される、Ome Farmさん。東京・青梅市を拠点に活動する農業チームだ。毎週欠かさず出店してくれるFarmers Marketのブースには、朝から都内の名だたるシェフや食通をはじめ多くのお客さんが集う。僕自身も実際にOme Farmさんの野菜を食べて思うのは〝食べ続けても飽きない野菜〟だということ。不思議といくらでも食べれてしまうような感覚があり、これが美味しさなのかもしれない、と感じている。

洋服をどれだけ売ろうが、展示会をどれだけやろうが、娘を治せなかったら何の意味もない

Ome Farmの代表を務めるのはアパレル出身の太田さん。日本のアパレル業界を牽引してきた父の元に生まれ、かつては自身でも「業界の裏方を担う」とまで宿命づけられていたほどなのに、一体農業における活動のエネルギーと原点は、どこにあるのだろうか。その一番のきっかけとなったのが、娘さんが生まれた当時に診断された疾患にあった。

「娘が生まれたとき、最初の血液検査で甲状腺機能低下症(クレチン症)と診断されて、育たない、死ぬかもしれないと言われた。当時はファッションの企業で働いていて、自分がこの業界を背負っていくという気持ちでいたし、妻も同じ気持ちで支えてくれていたのだけど、洋服をどれだけ売ろうが、展示会をやろうが、目の前にいる自分たちの娘を治せなかったら人生になんの意味もない、と思って。」

そう教えてくれた太田さん。娘さんが当時診断された疾患と向き合うには、何よりも食が大事だと気付かされ、たまたまとある企業で農業のプロジェクトがはじまるという話が自分の元に舞い込んだこともあり、事業スタート。

直後から葉山に試験農場を借りて、娘さんへの離乳食の食材として、農薬や肥料を使わずに野菜を育てることに成功していたのだそう。

写真:収穫したケールを山水で洗うところ。

「食べるものはある」と、独立1年目は無報酬。

その間、娘さんの症状も数値的に回復し順調に行くかと思われたけれど、その後2年半ぐらいで農業プロジェクトから会社が撤退。「その理由は未だに分からない」と笑う。農業者直轄のレストランもスタートしていて、昼のサラダランチに代表される畑から届く美味しい野菜が人気を博し、いつしか会社の持つ近隣の飲食店のサラダ部門の客層をまるまる食ってしまう売上が立つほどに。

それが仇となったのか、目立ちすぎたのか、目の敵とされてしまい事業の撤退を迫られ「農地は借りているし、地主さんや、集まったスタッフに迷惑はかけられない。一体どうすれば?」と話すと「自分で会社を立ち上げたなら、事業をそのまま売ってやってもいい」という打診を受け、数ヶ月の交渉の末、会社を設立。

夫婦として話し合いを重ねる中で、太田さん本人も「農業では何にも変えがたい学びがあったので、このまま続けたい」と話すと「何か一つの産業から学ぶことがあるなんて、いままで聞いたことがないから、それならやるべき!」と背中を押され、独立を決意したのだとか。

当時レストランに関わっていたスタッフたちは残念ながら離職させることになり、畑は本気のメンバーだけが残り、現在にまで至る。結果を出すために奮闘するものの、最初の1年間はやはり大変だったそう。「食べるものはある!」ということで、貯金を切り崩しながら、夫婦としては報酬をもらわずに会社をまわすことで、自分たちと一緒になってついてきてくれたスタッフに還元。会社設立から2年目に手応えを掴み、そこからこれまで順調にきている。

元々の娘さんの疾患も、結果としては約3年半で完治。医者からは「命に別状はなくとも、成人するまで付き合うものだ」とまで言われていたというから、驚きだ。医者からの言葉を鵜呑みにせず、夫婦で散々議論した末に、食の重要性に気づいて実践して、実際に治すことができた。「人間的にもクレチン症に育ててもらったといっても過言ではない」という太田さんは、自らが表に出て発信することで、これからは同じような悩みを持つ人たちを励ましていきたいという。

写真:Ome Farmのスタッフ、島田さんと松尾さん。これから種まきをする畑に自家製の堆肥をまいている。

水は山水、土づくりには自家製の植物性堆肥。そして種は固定種を。

〝堆肥〟と聞いてどんなものが思い浮かぶだろうか。多くの人が頭のなかで想像して、最初に思い浮かぶのは〝肥やし〟=〝なんだかクサいもの〟ではないだろうか。Ome Farmさんが案内してくれた堆肥場は、全くイメージと異なり、クサくない。クサくないというよりも、そもそも臭わないといった方が正しいかもしれない。

堆肥のベースとなる栗の落ち葉や籾殻などからなる床材たちに、野菜の残さや根、土も入れ込み、米ぬかに山水を加え、混ぜたり切り返しながら発酵を促し、約1年をかけて仕上げていく。その堆肥を土に混ぜながら、3~5年かけて〝いい土づくり〟を目指す。

完成した堆肥は土づくりや、自家採種あるいは購入した固定種をポットで育てるハウスでも活用している。この場所で使用する水には山水のみで、浄化された水道水は一切使わないのだとか。水があり、堆肥があり、種がある。そこが全ての根幹であり、あとは畑に植えてしまえば自然と育つ。堆肥はけして撒きすぎない。

養蜂も養鶏も、循環の中に。〝未来のスタンダード〟となるような存在。

これまでに挙げてきたのは、農業においては欠かせないもので、文字にしてしまえば簡単ではあるけども、実際にこの全てに取り組んでいる農家さんは、日本ではほとんどと言っていいほどにいない。その中で、数少ない実践者であるのが、ここ〝Ome Farm〟だ。さらには養蜂と養鶏まで含めて、一つの法人や農業チームで取り組んでいるところとなるとなおさら。それを当たり前のように、スマートに、自然とチームで彼らは行なっている。

いまではとても珍しく感じてしまう、Ome Farmの取り組みの全ては、農業における〝未来のスタンダード〟となる可能性を秘めているに違いない。

写真:写真:太田さんが〝Ome Farmの根幹〟とも呼ぶ、土作りに欠かせない自家製堆肥たち。畑に残ってしまった野菜も余すことなく、堆肥として循環させていく。(この日投入した茄子も水分が抜けていき、虫や、微生物に分解されてく。

写真:種から苗を育てるためだけのハウス。種は自家採種の、あるいは信頼出来るネットワークから購入した固定種・在来種のみを使用している。

写真:左から順に、太田さん、太田さんの養鶏の師匠でもあるフォレストファーム恵里の中安さん(真ん中)、料理人でOme Farmの畑や畑での食のイベントにも携わる小川さん。
写真:Ome Farmの養蜂を担う藤原さん。小さなころからミツバチと向き合いその道20年近く。現在35群ほど管理している。