「食べることは幸せなことです」―やまきぬぷちのうえん・山口きぬえさんが野菜に込める想い

青山ファーマーズマーケットで10年以上にわたり出店を続けている「やまきぬぷちのうえん」。その魅力は、豊富な品揃えと野菜の鮮度。アーティチョークやエルダーフラワーといった珍しい品種から、トマトやレタスなどの定番野菜までがずらりと並びます。
プロのシェフから日々の食卓を預かる一般の方まで、幅広い層から厚い信頼を寄せられている同農園。
園主として今も自ら店頭に立ち続ける山口きぬえさんに、これまでの歩みと野菜作りへの想いを伺いました。


―まずは、山口さんが農業を始められたきっかけをお伺いしたいです。

山口:父が管理していた庭と畑を引き継いだのが始まりです。そこでトマトやキュウリを作り始めたら面白くなってしまい、気がつけば規模がどんどん広がっていきました。
「やまきぬぷちのうえん」という名前は、最初は庭先から小さく始めたことに由来しています。ただ、今ではこのマーケット会場全体と同じくらいの広さがあるかしら。それを姉と二人で切り盛りしているものですから、毎日大変ですよ。

―ファーマーズマーケットに出店することになった経緯を教えてください。

山口:10年ほど前、収穫した野菜を自分たちだけでは消費しきれなくなったことがきっかけです。田舎の直売所へ出すよりも、もっと身近な場所はないかと探して、この場所を見つけました。
出店してからは、シェフや一般のお客様のリクエストを伺っては種を探したり、苗木を買ってきたり。お客様が求めるものに応えるために、試行錯誤の連続でした。
先日も一週間パリへ行き、現地のマルシェや種屋、花屋を巡ってきたばかりです。「フランスにはこんなものがあるんだ」と知ると、また新しいものを作りたくなる。好奇心と探究心が尽きないんです。

―野菜を作る上でのこだわりはありますか。

山口:特別な「農法」はありません。美味しく作るために、ただ一生懸命やるだけです。虫に全滅させられては元も子もないですから、必要な時は最低限の農薬も使います。土地の狭い日本で、お隣さんが農薬を使っていればその影響は避けられません。「100%農薬不使用」を実現するのは非常に難しい。だからこそ、とにかく「一口食べて美味しい」と感じてもらえる野菜を作ること。それが私にとって一番のこだわりです。

―並んでいる野菜は、どれも本当に瑞々しいですね。収穫はどのタイミングで行っているのでしょうか。

山口:すべて前日に、姉と二人で収穫しています。朝4時半に起きて5時に出発し、畑まで1時間半。そこから20時、遅い時は22時まで収穫と袋詰めをしています。

―鮮度が高いだけでなく、良心的な価格設定も魅力です。

山口:たくさん収穫できた時は、大袋でサービスしちゃいます。価格も、市場価格は気にせず「自分が買うならこの値段」という感覚を基準にしています。以前はもっと安くしていたのですが、お客様や他の出店者から「安すぎる、商品に自信があるならもっと高くつけなさい」と背中を押されて、少しだけ見直しました。「上手にたくさん育ったら、安くして皆に喜んでもらえばいいじゃない」という考えなので、儲けようという欲はあまりないのかもしれません。

―多種多様な野菜の中で、今年の一番おすすめを教えてください。

山口:今年はイタリアントマトに特に力を入れています。パスタ用のトマトは、スーパーだとなかなか手に入らないでしょう? 昨年「モルト・ヴォーノ」などの種を植えてみたら大好評で、「あのトマトが欲しい」とわざわざ買いに来てくださるシェフもいらっしゃいました。今年はさらに種類を増やして挑戦しています。生のトマトから作るパスタは、本当に最高ですよ。
*イタリアントマトは7月上旬から下旬にかけてお店に並ぶ予定とのことです。

―僕の友人が「みんなが山口さんみたいに穏やかになれば、世界は平和になるかもしれない」と言っていました(笑)。

山口:あら、そんな(笑)。でも、食べることは幸せなことですよね。美味しいものを食べている最中に、怒っている人はいませんから。

―最後に、この仕事を通して感じる「喜び」について教えてください。

山口:もちろん「美味しかったよ」という言葉も嬉しいですが、この場所での「繋がり」そのものが楽しいんです。出店者同士もそうですし、わざわざ通ってくださるお客様もたくさんいらっしゃる。単に安さを求めるのではなく、食文化そのものを楽しみに来てくださる方が多いのが嬉しいですね。
昨年、イタリアンレストランで食べたグリーンピースのポタージュがあまりに美味しくて、シェフに品種を聞いたんです。それで今年はフランスから種を取り寄せて育ててみました。すると、かつてフランスに住んでいたお客様が「向こうで食べた味と同じだわ」と言って買ってくださって。そんな風に世界が繋がっていくのが、本当に面白いなと感じています。

編集後記:
山口さんのお話を伺って印象的だったのは、尽きることのない好奇心と探究心です。

一つの場所で10年以上出店し続けるなかでも、「もっと美味しいものはないか」「お客様に喜んでもらえるものはないか」と、常に新しい種を探し、時にはパリまで足を運んで自ら学び続ける。その挑戦の姿勢こそが、長く愛され続ける一番の秘訣なのだと感じました。

「食べることは幸せなことです」という山口さんの言葉通り、彼女たちの野菜は食卓に幸せを運んでくれます。マーケットを訪れた際はぜひ会話を楽しみながら、その情熱が詰まった野菜を手に取ってみてください。

やまきぬぷちのうえん:
山口きぬえ氏と、その姉の山口かずこ氏の二人で切り盛りする茨城県坂東市の農園。自宅の庭先から「ぷち」サイズで始めた野菜作りが評判を呼び、現在は広大な敷地で多種多様な品種を栽培している。アーティチョークやエルダーフラワー、加熱用のイタリアントマトなど、スーパーでは手に入りにくい珍しい西洋野菜から、鮮度抜群の定番野菜まで幅広く手掛け、プロのシェフからも厚い信頼を寄せられている。青山ファーマーズマーケットには、2014年頃より出店を続けている。

Photos:Jun Kuramoto
Words:Hayato Yamane


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