「急かさず、待って育てる」―自然農園TOM・戸村重雄さんの野菜作り

青山ファーマーズマーケットに出店して14年の「自然農園TOM」の農園主・戸村重雄さん(通称トムさん)。

いつも穏やかな笑顔でマーケットに立つトムさんに、農業を始めたきっかけや野菜を作る上で考えていることについてお話を伺いました。

 

Q. トムさんが農業を始めたきっかけを教えてください。

もともとうちは代々農家ではないんです。父が戦時中に地元の成田に戻り、農業を始めました。私はその2代目として畑仕事を引き継いでいます。

20歳頃には東京で働いていましたが、成田空港の建設問題がきっかけで地元に戻ってきました。空港建設に伴う農地の強制収用に納得できなかった地域の若者たちが、一斉に声を上げていました。東京に出ていた仲間たちも続々と帰ってきていたし、自分もその流れの中にいた。地域ぐるみで反対の立場をとるなか、「ここにいるべきだ」と自然に思えたんです。

 

Q. 反対運動と農業は、どんな関係があったのですか?

反対運動の支援者の中には全国各地から人が集まってきていて、その中の一人の学生が「発酵菌」を持ってきてくれた。落花生の収穫後の殻や、山の枯れ葉を集め、その発酵菌と合わせると素晴らしい堆肥ができる。それが農薬を使わない道に踏み出した最初の一歩でした。

この頃、水俣病の患者さんたちとも自然につながりができました。東京で支援を募る活動をする際に成田へ立ち寄ってくれる方もいて、直接交流する機会があった。彼らの話は、農薬や化学物質が人の体や土壌に何をもたらすかを、生々しく教えてくれました。農業を続けるうえで、体と土を汚さないことへの思いが、この出会いを通じてより深くなっていったんです。

また、当時は生活協同組合(生協)が各地で生まれつつある時期で、「農薬を使わない野菜を求めている」という需要と、私たちの「安全な野菜を届けたい」という想いが一致した。成田の支援ネットワークを通じて東京の生協とのつながりができ、出荷ルートも整っていった。それが、今の農業の出発点にもなっています。

 

Q. 野菜を作る上でのこだわりはありますか。

難しく言うつもりはないんですが、農業で一番大切なのは雨と太陽、立地条件(畑)、それを取り巻く風景、つまり自然界そのものだと思っています。人間が過度に手を加えるのではなく、自然に寄り添う。

たとえば、種をまいても全滅することがある。収穫がほぼゼロになる年もある。それは自然界のこと。でも、そこで焦って肥料を大量に投入したり、薬で無理やり育てようとはしない。植物が自分の力でゆっくりと成長していく時間を、じっと待つのが私のやり方です。

その成長の過程で、植物は自らいい味をつくり出していく。それは人間にはどうにもできないことで、自然界と植物に任せるしかない。「急かさず、待って育てる」。それが肝心なんです。

Q. ファーマーズマーケットに出店することになった経緯を教えてください。

ある時期、、生協への出荷が多忙すぎて体を壊しました。月曜から金曜まで休みなく、大量の野菜を洗って出荷する日々。心筋梗塞を患い、5年ほど農業を休まざるを得なかった。その間に畑は荒れてしまって、手がつけられない状態になっていった。

でも、誰にも畑を貸さなかった。自分の畑として守り続けた。体が回復してきたとき、1年かけてゆっくりと畑を元の状態に戻しました。

その後、生協に復帰する話もありましたが、また同じように体を壊すのは目に見えていた。そこで出会ったのがファーマーズマーケットです。娘が青山で仕事をしていて「こんなマーケットがあるよ」と教えてくれた。見学に行ってみると、活気があって、いろんな生産者が集まっていた。農薬を使っている人も使っていない人も、多様な作り手がいるのが面白かった。自分の野菜が東京の真ん中で受け入れてもらえるか、試してみたくなった。

 

Q. ファーマーズマーケットに来るお客さんに一言お願いします。

お客さんへ一言あるとすれば、「マーケットは食べ比べて、自分の味を探す場所」でもあるということ。うちの野菜だけが美味しいとは言いません。色んな生産者の野菜を食べてみてほしい。そのうえで、僕の野菜がまた食べたいと思ってもらえたら、それが一番うれしいです。

インタビューを終えて

「野菜が育つのを急かすのではなく、じっと待ちます。」戸村さんの育て方には、何十年も土地や自然を相手にしてきた、その生き方そのものが表れているように感じました。

戸村さんが育てた野菜は、言葉だけで全てを説明することはできません。ファーマーズマーケットにお立ち寄りの際は、ぜひ戸村さんの手がけた野菜を直接手に取ってみてください。

 

プロフィール:自然農園TOM

千葉県成田市を拠点に、戸村重雄さん(通称トムさん)が営む農園。自らの力でゆっくりと育つ時間を大切にした野菜づくりを続けている。青山ファーマーズマーケットには2012年頃より出店開始。

Photos:Jun Kuramoto
Words:Hayato Yamane


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