豊穣な風土を織りなす人々と北秋田の現在地 〜SEEKING KITA – AKITA|ニューマタギイズム〜【農事組合法人 ぬかさわ】編

田植えが佳境を迎えた5月半ばの現地へと赴き、みそらファームに続いてお話を伺ったのは、前回の取材でもお会いした「農事組合法人ぬかさわ」の出川信久さん。遊休農地や耕作放棄地を引き継ぎながら農地を再生することをミッションにお米を育てる彼らが管理するにんにく畑を訪れて実感したのは、栽培のこだわりと同様に、さまざまな農機が日本の農業を支えているということ。今後、日本の農業を支える仕組みはどのように変化していくのか、北秋田の農地と向き合う出川さんの姿勢を通して「ニューマタギイズム」の新たな萌芽を見た。


「SEEKING KITA – AKITA」は文字通り、北秋田に自然と結びついた理想の暮らしを探し求めた。

日時:2026年7月4日(土)、5日(日) 10:00〜16:00
会場:国際連合大学・前庭(〒150-0001 東京都渋谷区神宮前5-53-70)
参加事業者:みんなの畑/近藤農場/みそらファーム/農事組合法人ぬかさわ/上杉組/北秋田市 世界遺産係/秋田八丈 はまなす工房


前回、2025年10月の取材でお米の収穫期を迎えた北秋田市を訪れた際に取材させていただいた農事組合法人ぬかさわの出川信久さんは、お米を中心に栽培しながら遊休農地や耕作放棄地を継承することで、耕作面積を就農時の6倍まで増やしてきた。特に印象的だったのは、「あきたこまち」などの伝統的な水稲品種から、最近の研究で開発された「ZR1」などの陸稲品種まで積極的に手を広げ、5品種のお米を栽培してきたことだ。

ただ、今回はお米づくりではなく、9月の稲刈りを終えた直後に作付けをはじめられるにんにく栽培についてお話を伺うことに。農業機械が無造作に並ぶ車庫はさながらショールームのようで、なかには成人男性の背丈ほどのタイヤを履いたトラックの姿も。そのスケールの大きさに圧倒されながらも、広大なにんにく畑へと足を運び、栽培のこだわりを聞いた。


広大なにんにく畑を背に夢を語る、農事組合法人ぬかさわの出川信久さん。

 

にんにく栽培をはじめた理由。

お米を中心に栽培されている出川さんですが、どうしてにんにくの栽培をはじめられたのでしょうか?

私たちはもともと20ヘクタールの圃場で水稲を育てていたんですが、遊休農地や耕作放棄地があまりにも出てきてしまったので、そうした農地を守っていくために、積極的に受け入れるようになったんです。基本的には水稲を中心にしているので、お米が育てられる農地であれば田んぼにしてきました。いまでは120ヘクタールまで拡大することができました。

ただ、どの農地にも水源があるわけではないですし、なかにはお米栽培に適さない土地もある。そういった土地では大豆や蕎麦を育てたりしているんですが、ここ最近は猿や熊などの獣害がひどくて、特に大豆畑は動物園みたいで収穫することすらままならないような状態まで荒らされてしまうこともあります……。

ただ、にんにくであれば獣害は少ないですし、お米の収穫が落ち着いたタイミングで作付けをはじめることができるので、にんにく栽培をはじめるまでにそう時間はかかりませんでした。

これから夏にかけて球が膨らみはじめる、5月半ばのにんにくの株。

栽培に関してですが、お米とにんにくという組み合わせはいつから?

もう5、6年になりますね。面積としては4ヘクタールになるので、収穫量は25トンほどになります。収穫したにんにくは乾燥させなくてはいけないので、人間の体温ぐらいの温度で1ヶ月弱、ゆっくりとボイラーで乾燥させていきます。

にんにくづくりの鍵は水捌けのいい土壌づくりだと思っているのですが、なかなか難しいものですね。研究を重ねてはいるのですが、にんにくの株が大小まばらに育ってしまうことも多く、苦戦していたんです。結局、収穫量も栽培した総量の半分くらいがいいところだったので、そんなタイミングでお米の販売価格が上がった去年は、本当に救われました。

ただ、お米の価格もある程度落ち着いてきてしまったので、何とかしてにんにく栽培を成功させようと、水捌けの改善や消臭効果もあるお米の籾殻を土壌に敷くなど、工夫をしているところなんです。この畑では去年から少し実験していて、黒いマルチを被せた箇所と籾殻を敷いた箇所でにんにくの育成にどのような変化があるかを試してみたりもしています。

白い土壌のにんにく畑には、籾殻が撒かれている。

籾殻を敷くという発想は、お米農家さんならではですね。

ファーマーズマーケットへの出店は、7月4日(土)、5日(日)になるので、ちょうどにんにくの収穫期ということで、生にんにくを販売する予定なんです。乾燥させる前の生のにんにくはこの時期ならでは。みずみずしくて辛味や刺激はマイルド、加熱すれば甘みも出やすいので、ぜひ味わってもらいたいですね。

必ずしも郷土料理に使われるわけではないですけど、馬刺しにおろしにんにくが添えられたりと、北秋田の人はみんなにんにくが大好きなんです。ただ、なぜだか私の家族はにんにくが苦手でね。去年、ファーマーズマーケットへ出店したときに、ひとりでこっそり抜け出して“ニンニクマシマシ”のラーメンを食べたら、それが本当に美味しくて(笑)。

にんにくの葉はあまり食べることがないかもしれないけど、ちゃんとにんにくの香りがするし、ラーメンの出汁もとれるんじゃないかな。料理へのアレンジ方法を青山のシェフの方たちにも聞いてみたいですね。

 

多種多様な農機が支える、日本の農業。

圃場を鎮圧しながら整地し、発芽や生育をそろえるための農機。

畑から移動してきましたが、ここは農機の倉庫なんですね。種を蒔く機械、苗を植える機械、農機にもさまざまな種類があって、まるでショールームのようです。

圃場のなかを農機が走行できるように、まずは土壌固めをするところからはじめます。水を張った田んぼと乾田とでは走行する高さも異なってくるので、それによって使用する農機も変わります。穴を空けてにんにくの種を植えつける機械、育ったニンニクを収穫する収穫機、マルチを張る機械、土を持ち上げてマルチを固定する機械など、育てる作物や作業工程によって農機もさまざまです。

さまざまな農機を牽引する動力供給用トラクター。

随分と大きなトラクターですね。これならどのような機械でも引っ張っていけそうです。

このトラクターはまだ小さいほうなのですが、これで農機を牽引しながら作業していきます。この規模の圃場を管理するには必須になってくる農機ですが、作物の種類や栽培の過程によって使用する機材が異なるので、新しい機材を新調しては借金を返し続けているような状態なんです。

この倉庫以外の場所にもまだたくさん農機があるんです。ただ、どんなに農機を揃えても、人がいないと農業はできないですからね。若い人たちにも教えていかないといけないんだけど、まずは乗り方から教えていく機会をつくらないと、いつまでも乗れる気がしないと思われてしまいますから。

第三次産業などの大企業がこうした第一次産業に参入することで、新たな農業人口を取り込むことができるかもしれませんよね。例えば、ゲーム業界とか。オンラインとオフラインを上手く使い分けることで、農業を支える新たなマンパワーを生むことができるかもしれないですし、農地へ赴くことでしか手に入らないような限定的なバリューを設定することで、双方にとってもメリットが生まれ、それにより日本の自給率も上がっていくかもしれません。

大企業であればこうした農機を購入することは容易いかもしれませんが、私たちみたいな農家の規模だと、継続していくことで精一杯なんです。それでも、いつの日か成功してやるという想いで、これからもこの北秋田の地で農業を続けていきますよ。


農事組合法人ぬかさわ

出川信久|Nobuhisa Degawa

Photos:Hinano Kimoto
Words & Edit:Jun Kuramoto(WATARIGARASU)


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