千葉/自然農園 Tom

千葉/自然農園 Tom

飛行機の大きなエンジン音が聞こえてきた。すぐ隣が成田空港なのだ。1960年代初頭より成田空港(当時の新東京国際空港)の開発地をめぐる土地や騒音などの諸問題で、日本政府と近隣住民との間で成田闘争が勃発。ここは、援農隊の運動で野良仕事を手伝うために多くの人が集った歴史がある土地のようだ。人や時代は変わっても、変わらないものがある。

10年前からFarmers Marketに出店してくださっている「自然農園 TOM」の戸村さん(以下、TOMさん)はトライアンドエラーを繰り返しながらも一人で自然と向き合い畑をリードしてきた。パートナーである香代子さんは、平日はテキスタイルを、週末はマーケットへと足を運び、農家の美意識を共にリードしている。

驚くほどきれいに整ったTOMさんの畑には、様々な情報が溢れている。動物の足跡、かじられた形跡のある野菜。畑は、自然のなかの様々な命と共存している。虫にとって住みやすい畑はいい畑だ。アマガエルが出る畑は水がきれいな証拠。雑草だって除草剤を撒いていないから当然生えてくる。自然は自然のまま。そもそも、雑草はいつから雑草になったのだろう。人間の意識が自然をつくり変えることなど到底できない。
 
野良的思想 〜 Feel Good, Fields Good. 〜

「農業とは、太陽・雨・土が基本。晴耕雨読、“野良”が根幹の思想として広がっている」

と語るTOMさんは、これまでの人生で“目に見えない部分”を追求してきたという。そんなTOMさんが自然と向き合うなかで感じることは、自然には一人でしか向き合えないが、その思想はそれぞれにシェアできるということ。自分の信じる道に共感してくれる人たちと分かち合えれば、それ以上は望まない。ここ5年ほど天候が不安定だけど、それも路地栽培をやる上で逆に面白くなってきたと話してくれた。一方で、資本主義が自然と人間とのバランスを崩しているのを、都心でサラリーマンをしていた人が農業に回帰するために成田を訪れるのを目の当たりにするなかで感じるようになったという。

野菜本来の味
 
野菜に正解の味はない。あえて言うなら、その野菜の味が正解なのだ。自然はいつだって変化していて、同じ答えを二度繰り返すことはない。自然の味から離れ、調味料の味に慣れてしまうとついつい同じ味を求めてしまうが、本当はランダムな性質を持った野菜本来の味に寄り添わなければならない。工場で同じ光を同じ時間だけ浴びた同じかたちをした野菜が運ばれてきたら、同じ味がするかもしれないが、人々は本当にそれを求めているのだろうか。TOMさんに聞けば、資本主義に迎合するよりも、自然と向き合うことが必要だという。

文字の強さ、意味の曖昧さ
 
「有機野菜」、「オーガニック」という文字を見て、あなたはどのように解釈するだろうか。どんな種類の農薬をどの部分に使用しているのか、それとも全く使用していないのか、どこまでが減農薬で、県によって基準値は異なるのか。文字というのは常に一番手前に存在するため、ほとんどの人はそれを表面的に眺めることしかできない。それだけ強烈な力を持っているのに、肝心な中身が曖昧なのだ。だからこそ「できる限り詳細に表記することが農家の義務だし、文字の力に惑わされることなく、自分の信じることを突き詰めて野菜をつくるだけ」と語るTOMさん。100%有機であるならそう書くべきで、曖昧さのなかで書けないことがあるのはなぜかを考える必要がありそうだ。お客さんの選択に委ねるしかないのであれば、マーケットに立って伝えなければいけないことは何か。マーケットを開催する意味を考えさせられた。

Farmers Marketに求めること

「マーケットのお客さんが自分の野菜づくりのバロメーターになっているんです」。

マーケットには、あの農家さんがいなければこっちの農家さん、こっちの農家さんがいなければあっちの農家さんといったように、回遊しながらいろんな農家の野菜を食べて、常にどこの野菜が好きかを見定めているお客さんがいる。端境期に少しマーケットを休み、再び出店したときに、お客さんが他の農家さんのところへ行けば、そっちの方がおいしかったのかもしれないし、自分のところに戻って来てくれたら、それは自分の野菜が気に入ってもらえた何よりの証拠。マーケットに立って初めて気づくことも多いという。
 
二人でマーケットに立つ意味

TOMさんと香代子さんが二人並んでマーケットに立つことに、おそらく意味がある。折り重なる糸で緻密に織られたテキスタイルのように、きめ細かく頑丈なその組織は何年にも渡り織り続けられ、私たちの暮らしの根幹を優しく包み込んでくれている。このテキスタイルは自然と私たちとの間にある緩衝材のようなもので、自然から受ける影響も全く同じだが、私たちとの唯一の違いは、自然に抗おうとしないことだ。太陽が顔を出せば影をつくり、雨が降れば水を含みその身を重くする。時に激しく風に煽られ、時に優しく身を翻す。自然に抗わないこと、自然に身を委ねること。答えなんてないし、彼らもまだその道の途中。自然と向き合い、自然のなかで感覚を養えば、いつだって基準は人間ではなく自然にあることに気づかされるはず。際限なく求めるのは、人間のエゴだ。

TOMさんたちの考えに少しでも共感できたなら、マーケットで実際に野菜を手に取ってみてほしい。そして、彼らと話すなかで、もっとその思想の根幹を掘り下げたくなったなら、実際に畑を訪れてみてほしい。8月最後の月曜日、今でも初心者の気持ちで農業と向かい合っているというTOMさんの畑を訪れた。さっきまでの飛行機は、いつの間にか見えないところへと消え、また新たなエンジン音が響き始めた。


栽培方法 水耕栽培 土耕栽培
肥料 化学肥料 有機肥料(購入) 有機肥料(自家製) 無肥料
雑草対策 除草剤 手刈り 放置 その他
病害虫対策 殺菌剤 殺虫剤 手潰し その他
種苗会社より購入 自家採種
メッセージ

なるべく植物性のもののみで、畑の外からものを持ち込まずに土づくりを行っています。農薬を使わないので虫も出ますが、ほとんど自然まかせです。