【Farm Report】130年続くお茶農家の、新たなる挑戦。静岡・ひらの園

「いま、ひらの園さんが大変らしい・・・」と聞きつけて

Farmers Marketにも約10年近く出店してくださっている静岡の掛川にあるお茶農家・ひらの園さん。お茶農家さんとしても若手で、人柄もステキで、これまで毎年出店してくださっていた。ただ、今年は新茶の収穫と加工を終えてからも、Farmers Marketが開催休止していたこともあり、まだお会いできていなかった。約130年続く歴史あるお茶農家のひらの園さんにとっても、例外なく厳しい1年となり、そんな中で「いま、ひらの園さんが大変らしい・・・」という話しを人づてに伺った。Farmers Marketでは何度もお会いしていたけれど、考えてみたらまだ一度も畑にお伺いしたことがなかった・・・と気付き、早速連絡をしたところ「お茶でも飲みながら、ゆっくり話そう」とお返事をいただき、先日畑に訪問することに。

東名の掛川インターを降りて、車を走らせること数分。道路の両脇には茶畑が広がっていた。加工場と茶畑も一帯になったひらの園さんのご自宅に到着すると、早速車を乗り換えて、10箇所ある茶畑の一部を巡りながら案内してくれた。

園主の平野さんからは、掛川のお茶の歴史、一般的に標高のある山間で育てられる〝山の茶〟に対して、掛川のような標高のあまりない場所で育てられるものを〝里の茶〟と呼ばれることなどを丁寧に教えてもらった。同じ地域内にある茶畑でも平坦な場所にある茶畑、日陰の多い茶畑、小高い小道の先にある茶畑、獣道のような山道の先に開けた茶畑と同時に様々に巡ってみると、品種の違いや育った年数で見た目が異なるのはもちろん、同じ品種でも成長の違い、畑の条件の違いで茶葉の状態などの差が際立ってとても興味深い。

(写真:風通しのよく、辺りを見渡せる小高い丘にある茶畑)

平野さんによると、一般的には山間の、日中も日陰になりがちな場所が茶葉にとっては一番栽培に適していると言われているそう。その観点から言えば、掛川は適地ではないけれど、茶葉は十分に育つ。山間の茶畑は理想的だけど、人も入るのが大変な場所が多いため、機械が入るのはより難しく、一年中管理が大変で、仕事量も多くなる。その辺りのバランスが取れていて、それぞれの場所で育ったお茶ごとに味わいの違いがあっていいと思っている、と自らの考えも教えてくれた。

(写真:左の黄緑ががっている方が農薬・化学肥料不使用、右の濃い緑が肥料や農薬を使用した茶葉。どちらがいい悪いではなく、実験的に色々と試しているのだそう。)

過渡期を迎える、お茶農家

約130年の歴史を持ち、茶農家として成り立ってきたひらの園さん。先述のように、現在でも自宅の前の茶畑含め、大小合わせて約10箇所の点在する茶畑を管理している。地域ごとに異なるが、掛川あたりでは通常、春の新茶からはじまって、夏、秋と年間3回の茶葉の収穫と加工までを一貫して行ってきた。(茶葉の栽培から加工まで一貫して行なっている茶園は、茶の産地である掛川でも20人もいないという。)

ただ、平野さん自身も「特にこの数年で、明らかに茶葉の売上が落ち込んでいる」と話すように、厳しい状況が続いているという。その背景には様々な要因があるが「(少し前まで)春先に1年分買う(数万単位で)っていうお客さんがうちにも沢山いた。それがここにきて全国的にも激減している状況になっている」と平野さん。時代と共に食文化が変わり、生活スタイルも変わり、ペットボトル飲料の台頭などもあり、〝茶葉を買って自宅でお茶を飲む〟という機会自体が、確かに減ってしまったようにも思われる。

ひらの園としても「2021年からは、これまでの年間3回の収穫をやめて、一番茶(自園の主力商品でもある)に専念する」決断をした。今まで通りのやり方を思い切って変えて、最初は卸しも続けながら、徐々に小売りのシェアをあげていくことを目指しているそう。実は、生産した茶葉を自ら小売販売をはじめたのも平野さんの代になってからなのだとか。今年でようやく小売も11年目を迎えた。

それまでは茶葉の生産を終えたら茶葉を買い取ってもらうことで成り立っていたため、茶葉の加工も行わず、小売をする必要のない時代が長く続いていたが、今日では一茶農家として過渡期を迎えている。

(写真:獅子柚子という大きな品種の柚子を持つ平野さん。「もう使わない」という畑を新たに借りて、みかんやその他の柑橘も育てはじめている。自園で作る紅茶に、柑橘の皮を入れて新商品にできないか?と考えているそう。)

自然の流れを大切に。新たな挑戦としてのいちご栽培

今回の訪問では事前に少し状況は伺っていたので、平野さんご自身も少し神妙な面持ちでいるかと思って伺ったけれど、予想に反してご本人は明るく、いつものように丁寧で、希望に満ちていた。茶畑を一緒に巡る途中、少し照れた表情で「実は最近、いちごもはじめてさ」と教えてくれた。そして、一通り茶畑を案内してくださった帰り道、既に苗を植え終えたといういちごのハウスに立ち寄った。順調に育てば今年の12月に最初のいちごが採れはじめるという。

来年以降、一番茶に専念するにあたって、余力で何か新しい取り組みをできないか?と情報を集める中で「高齢を理由に昨年引退したいちご農家さんが、空きハウスを使ってくれる若手の農家さんを探している」ということを偶然知ったそう。「最初からこのハウスを設備含めて建てたら1000ー1500(万円)くらい。それが(設備もそのままで)年間数万で借りれるから、これはできるぞ!と思って」と、平野さんは嬉しそうに話してくれた。

(写真:新たにスタートしたいちご栽培のハウスにて。平野さんの笑顔にこれからへの希望を感じた。)

他にも「お茶、いちご、干し芋(6−7年前からはじめた、ひらの園さんの密かな人気商品!)、柑橘。いま一応4本柱があって。あとハチ(養蜂)もやりたいなと思って、色々と調べている最中」なのだそう。ちょうどいま、農家さんの高齢化と後継者不足も伴って、農業界では若手になる平野さんのところに、新たな畑や今回のようなハウスを借りるチャンスが偶然にも巡ってきている。

かつては需要に対して生産の追いついていなかったお茶が、それに応える形で規模を拡大してきた。時が経ち、お茶の消費量が低迷しつつある中で、いちごは逆に需要も増えて取引の値段も上がりながらも、生産が追いついていない作物の一つなのだそう。「たまたま農業をやる中で、こうしていちごをやることになって。自然の流れの中で、自分のところにきたものは大事にしようと考えていて。いちごもうやったことなかったし、よし、やってみるか!と思って」と、平野さん。歴史のある『ひらの園』の看板を背負いながらも、時代と状況に応じて自ら好機を見出し、〝農家〟として新たな挑戦をはじめている。これからのひらの園さんが楽しみでならない。

 

ひらの園さん、CAMPFIREに挑戦中!(詳細はクリック)

 

(写真:自然仕立て(機械を入れずに、茶葉を手詰みする昔ながらのスタイル)の茶畑の前で、平野さん一家。)


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