「Cash or Square」Interview with Green Basket Japan |加藤かいさん

「Cash or Square」Interview with Green Basket Japan

ずっとプレーヤーであり続けること

・Farmers Marketへの参加理由を教えてください

農業をはじめる前から単純におしゃれな場所として知っていたのですが、生産者として、実際に食べてくれる消費者や飲食店の方に買ってもらいたいと思い、はじめて野菜を販売したのがFarmers Marketでした。

Farmers Marketの魅力は何ですか?

人の顔を見ることが何よりの安全基準を担っている

お客さんです。農薬や化学肥料を使わないこともそうですが、農家が直接売りに来ることに興味がある人が来てくれるところです。もちろん自分の畑やバックグラウンド(栽培品種、品種の選抜、場所)を知ってもらうことがありますが、最終的に生産者の顔を見て買ってもらうということに意味があると思うので、Farmers Marketはすごく重要な場所だと思っています。

・来場されるお客さまに変化はありますか?

最近は、以前にも増して消費者や飲食店の方が直接買いに来てくださるようになり、そういった方々に対して販売するということにすごく重みを感じています。

・対面販売の魅力は何でしょうか?

医学や科学で全て証明し切れているわけではないし、理論や理屈があり、安全性を見るベクトルも異なるなかで何を基準にすればいいかというのは、すごく難しいこと。では、最終的に何で判断するのか。やっぱりコミュニケーションを取って買うことだと思います。そこでの笑顔や会話、どんな風に料理するとか、農家の思いが伝わることが精神的な安全性にもつながるし、文字では表せないことがあると思っています。

・もしFarmers Marketに出店していなかったら?

Farmers Marketに出店したことで、畑が変化していった

単一作物を農薬を使って栽培し、市場に出していたと思います。Farmers Marketに出たことで、畑の様子は大きく変わりました。

・「Green Basket Japan」立ち上げのきっかけは?

実は、はじめは農業をしようと思ったわけではありませんでした。以前はIT会社をやっていたのですが、モノづくりをする上ではプレーヤーで居続けたいという思いがあり、会社存続のためにそれが難しくなったタイミングで、イタリアン レストランをしていた父親が先祖から引き継いだ農地に遊び半分でオリーブの樹を100本植えたんです。最初はあまり興味がなかったのですが、プレーヤーで居続けながらモノづくりをするという意味で人生を賭けるには、このオリーブ栽培に可能性があるかもしれない。と、オリーブオイルに合う野菜やハーブをつくりはじめたのが農家になるきっかけでした。あとは、オリーブ畑を10年やればフェラーリが買えるというウェブの経済指標に絆されました(笑)。

Farmers Marketで販売している商品や事業をする上でのこだわりはありますか? 

こだわりを持たないことが、こだわりです

なるべくこだわりを持たないことが、こだわりです。何かにこだわると、そこで止まってしまうので。その時点ではもちろんこだわっているけれど、なるべくこだわり過ぎず、アップデートできるようにしています。

一方で、休まずにマーケットに毎週出続けることも大切でした。毎週参加している農家さんがいろいろなお客さんと接しているシーンを見ていたので、そこに自分も入っていくことが必要だと感じ、休まずに出続けることを決めました。端境期をつくらなければ、それが実現できる。そのために、新規就農で多品目。しかも農薬を使わずに栽培する、農業では一番難しいゾーンに入ってしまったのですが、負けず嫌いなところがあったので、そこを目指せたというのはあります。あとはもう忍耐ですね。マーケットに毎週出続けるために徐々に品目を増やし、そのなかで常連さんやシェフから、「これ探してたの」、「こういうのをつくってほしい」と求められる機会が増え、作物の幅がより広がっていきました。

 常連さんやシェフとの会話から、多品目農家に

・農家としてのゴールはどこに定めていますか? 

お皿の上をイメージする農業をしよう

農業って、種苗会社のカタログを見て種を採ったり、地域の推奨品種をつくるのが普通なので、お皿の上を見ているわけではないんです。本来、お皿の上はそれを食べる人やつくる人が見るものなので。でも、私はマーケットを訪れる食通の方やシェフからそういった意見をいただくことで、お皿の上をイメージしながら農業をすることができました。Farmers Marketは、情報交換の場でもあります。なので、種を蒔く時点から自分が考えているのは、お皿の上。お皿の上をイメージする農業をしようと思っています。

市場を通しているわけではないので、規格に捉われず、どういう料理になるか考えながら大きく採ることもあれば、包丁を使わないで済むように小さく収穫することもあります。

・事業を維持させている秘訣は何ですか?

自分の分身に嘘はつけない

嘘をつけないということでしょうか。そこにあるものが全てで、それを食べてもらうので。自分の分身ではないけれど、本来の姿として育てた野菜を並べているからこそ緊張するというか。でも、それがお客さんと向き合うということだと思っているので。

コロナの影響で街の状況が変化したことは事実ですが、常連さんは足を運んでくださいましたし、時々来てくださるお客さんやはじめてのお客さんに対しても求めていることは一緒だと信じ、同じようなコミュニケーションを心がけています。

・畑を訪れる魅力は何でしょうか。どんな方が来られますか? 

シェフやマーケットの常連さんが来ることが多いです。コロナ禍では一日おきに来るほどでしたが、畑が見きれないので、今は日程を決めさせていただき、一般の方も受け入れています。 

畑は、どうやって野菜を栽培しているのかを直接目で見てもらいながら伝えることのできる場所です。僕は単純に農薬や化学肥料を否定しているわけではないので、それを使う、使わないという判断をどうしているかなど、マーケットですべてを伝えきれない分、大きな意味があると思っています。

・実際にSquareを導入して、お客さんとのコミュニケーションに変化はありましたか?

アクションが減れば、会話が増える。

野菜なのでどうしても少額のやりとりになるのですが、最近は小銭の振込や預け入れに対して手数料がかかってしまうことが問題でした。スクエアに手数料がないわけではないですが、それに比べると煩雑さはなくなりますし、作業性も上がる。片付けで手元を離れるようなことも多いので、安心ですよね。

お釣りを数えるときは集中しなければならないので、無言になりがちですが、そういったアクションが軽くなることでコミュニケーションの量が少なからず増えました。少し間ができるので、おすすめの食べ方を伝えたりしています。

ファーマーズマーケットのお客さんで多いのは、「大きいのしかないんですけど」と、一万円札を出すことに申し訳なさそうな方。なかには、今日は大きいのしかないから買い物は諦めようという方もいると思っているので、Squareを導入することで、そういったお客さんが気兼ねなく買い物ができるようになるのは嬉しいですよね。

・ファーマーズマーケット前日はどのように作業していますか?

朝食を済ませたら、昼までひたすら収穫。夏場は収穫したものを車に載せておけないので、室内へ運んではまた収穫というのを繰り返します。午後からは、足の早い花やハーブ類を梱包して伝票をつくっています。当初は日をまたぐこともありましたが、今は慣れてきたこともあり、夕方18:00には作業を終えることができています。

・農業を見据えた今後のビジョンを教えてください。

理想はたくさんありますが、コアの部分はしっかりとした「収入」だと思っています。そこがブレると精神的に続かないですし、農家だけでは発信できることも限られてくる。従来の農業共同組合のような横のつながりも大事ですが、林業や漁業、名のあるブランドが一次産業をサポートしてくれるようなことが起こることは大切だと考えています。異業種交流のなかに農業が入ることで広がる未来もあるのではないかと思っています。

・これからのマーケット像について教えてください 

日本では青山のFarmers Marketが一番だと思って頑張って出店しているのですが、地方にも同じようなマーケット機能が必要だし、それは異業種との交流があってこそ叶う部分なのではないかと思っています。

・効率化の先に何が残ると思いますか? 

好きか嫌いか、最後に残るのは人間味だと思います

効率化というのは、損得勘定で切り詰めていくことだと思っています。自分もかつてはビジネスをしていたので、損得勘定で見るべきとも思っていました。でも、農業はそうはいかない。自分が好きだからこの野菜をつくりたい、自分が好きだからこの人に食べてもらいたい。一プレーヤーとしては、そういう気持ちになると思うので、根本は好きか嫌いか。最後に残るのは、人間味ではないでしょうか。


2022.7.23

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