【Report】NORAH TALK|タネからみた文明社会〜胡椒とコーラとカカオの話〜

4月の NORAH TALK のテーマは、「タネからみた文明社会〜胡椒とコーラとカカオの話〜」。 ゲストは胡椒、コーラ、チョコレートというすごく身近な食品を大量生産の仕組みではなく、ていねいにものづくりしているお三方。それぞれの食品の魅力や、素材としての捉え方、産地と消費地での食べ方の違いなどについてお話していただきました。扱っているものは別々ですが、いずれも種にまつわる食品ということでの共通点も。

▼ゲスト
倉田 浩伸氏 クラタペッパー株式会社 代表 |http://www.kuratapepper.com/index.html
小林 隆英氏 伊良コーラ 代表|http://iyoshicola.com/
田淵 康佑氏 Minimalブランドマネージャー|https://mini-mal.tokyo/

写真|左から伊良コーラの小林さん、Minimalの田淵さん、クラタペッパーの倉田さん。

伝統的な農法で、世界一と言われたカンボジアの胡椒を復活させる
クラタペッパー代表の倉田浩伸さんは、カンボジアで胡椒づくりをしている。かつてカンボジアの胡椒は世界一おいしいと言われていたが、1970年から30年近く続いた内戦により、胡椒の栽培は激減してしまった。その胡椒をもう一度復活させようと、1997年からカルダモン山脈の麓で現地の人々と伝統的な農法で栽培している。

ファーマーズマーケットには春と秋の2回出店されているので、カンボジア胡椒独特のフルーティーな風味を味わってみたい方は、次回のチャンスにぜひ。


フルーティーな酸味も、カカオと砂糖だけでつくられている Minimalのチョコレート
田淵康佑さんがブランドマネージャーを務める Minimal (ミニマル)は、“Bean to Bar (ビーントゥバー)” チョコレートの専門店。世界中のカカオ農園に足を運んで良質なカカオ豆を仕入れ、自社工房で板チョコレートができるまでの全工程を手づくりで行なっている。

ひとくちにカカオやチョコレートと言っても、「カカオは世界の約60カ国で作られていて、季節や産地でいろんな味があります。酸っぱいベリーみたいなものもあれば爽やかなミントみたいな味もあったり、カカオって素材によってすごく違うんです」と、田淵さんは話し始めた。
「農家さんといいカカオを作るとか、いい材料を仕入れてチョコレートを手づくりすることによって、実はカカオってこんなに面白いんですっていうことを知ってもらいたい」というのが、Minimalの想いだ。

そして Minimalのチョコレートの特徴は、カカオと砂糖だけを原材料につくられているということ。今回のトークで試食したチョコレートのひとつは「FRUITY」という名称で、食べてみるとちょっとベリーや柑橘っぽい酸味を感じる。といっても果物が入ってるわけではなく、果実感の味を出すために適した産地、豆、つくり方を組み合わせているという。

試食したもう一種類のチョコレートは「NUTTY」で、ザクザクした食感はカカオをまるごと噛んでいるようなイメージ。一般的にはチョコレートは味わいとともに口どけの良さも重視されているが、口どけを良くしようとすると2、3日、機械ですりつぶし続けるような作業が必要になるという。

「素材の時点でめちゃくちゃ香りが強いのになめらかにしようと思って加工すると、そのとがってる部分の香りが丸まっちゃうのがもったいない。個性的な香りのカカオを集めて、その香りをどうやったらうまくチョコレートに出せるか」と考えて、田淵さんたちはチョコレートづくりに取り組んでいる。


コーラの実は、コーラ自体の味や香りには関係ない?
ファーマーズマーケットに出店している伊良コーラの小林隆英さんは、漢方薬職人だったおじいさんから受け継いだ工房と調合技術も活かして、コーラの実からクラフトコーラを手づくりしている。

コーラと言えば、コンビニや自動販売機など街のいたるところで大手メーカーのものが売られていて、すごく身近な飲み物だが、コーラのつくり方やコーラの実についてはほとんど知られていないということに、小林さんの話を聞いてあらためて気がついた。

「まずコーラの実について話をすると、香りってほとんどないんですよ。で、味はめちゃくちゃ苦い。コーラってコーラの実から由来して名前がつけられてるんですけど、じつはコーラ自体の味とか香りにはほとんど影響がないんです」というのが、まず意外だ。

では、なんでコーラの実が入っているのかというと、コーラを開発した薬剤師のペンバートン博士が世界中のいろんな作物を研究して滋養強壮の成分としてコーラの実とコカの葉の2つを使ったので、コカコーラという名前になったんだそうだ。

カルダモンやナツメグなど10種類以上のスパイスと、柑橘類の皮に含まれる香り成分をうまい具合に調和させてつくっている伊良コーラならではのフレーバーは、トーク参加者で試飲して実感した。世界各地のカカオ農園へ買い付けに行く Minimal の田淵さんも、コーラの実については知らなかったそう。

「コーラとカカオってどちらも同じアオギリ科で、むちゃくちゃ仲良しな植物」と、小林さんは語る。「コーラの木って結構大きくなるんですけど、カカオの木はそこまで大きくならないので、ガーナやコートジボワールではコーラの木とカカオの木が一緒に植えられてちょうどいい日陰のバランスを取るんです。だいたい現地のカカオ農家の人はコーラの木も一緒に栽培していて、カカオで生計を立てつつコーラでお小遣い稼ぎをやっている人たちもいて、そういう意味で文化的にも植物学的にも仲良しな植物なんです」。

また、「飲み物としての側面とは別に、現地ではコーラの実は生の状態でかじって嗜好品として用いられているものなんですよ」という事実も小林さんは教えてくれた。「イスラム教の国ではお酒が飲めない代わりに、覚醒作用があるコーラの実をかじって楽しんでいるという側面があるんですよね。ガーナとかコートジボワールでつくられて、サヘル地域(アフリカのサハラ砂漠南部)に運ばれてイスラム教の人たちが楽しんでいる、っていうのがコーラの実のルートなんです」。

田淵さんからは、カカオもその起源であるメソアメリカ文明(現在の中央アメリカとメキシコなどの地域)では、滋養強壮に効くということで3粒で鶏やうさぎと交換できるほどの超貴重品だったことと、16世紀頃からヨーロッパにカカオが伝わってチョコレートのドリンクとして流行し、ヨーロッパの人たちがカカオをもっと売りたいために植民地でのカカオの栽培がスタートした、という歴史的な背景も触れられた。


胡椒も産地やつくり方によって味や香りが違う
カカオやコーラの実の話を聞いていて、「結構、胡椒と似てるな」と倉田さんは感じていた。「コーヒーがつくられるところで胡椒がつくられる。緯度が違うんですけど、コーヒーが1000メートル以上のところで、胡椒はその下。胡椒の場合、東南アジアが原産なので若干カカオ、コーラと違う部分はあるんですけど、ストーリーとしては大体同じかな。最初は薬として用いられて、日本では奈良時代に皇室の方が胃腸薬として使っていたのが最初で、正倉院宝物殿に入ってたりして、貴重なものでした」。

そしてトーク参加者のみなさんには、弓削多醤油とクラタペッパーの完熟胡椒で味がつけてあるカシューナッツの試食が配られ、倉田さんから胡椒も産地や作り方によって味や香りが違うことが紹介された。

「胡椒も産地によってすべて味が違います。作り方によって香りも違います。でもメーカーの都合で、そんなことを度外視して機械でガーッと乾燥させてしまって粉砕して瓶や袋に詰められて販売されているんですけども、じつはすごく手間がかかって、今でも労働集約型の作業で一粒ずつ、一房ずつ収穫しているんですね。そこから後の段階は機械化されていますけども、機械化せずにていねいに仕上げると、胡椒って本当に地域ごとに違ったフレーバーが出るんです。でもまだまだそこまでこだわる人が世の中に少なくて、胡椒って木の実じゃないのとか、ナッツとかの仲間じゃないのって思われがちなんですけども、胡椒はフルーツです」

胡椒をめぐる現状は「コーヒーで言うと、インスタントコーヒーが主流で飲まれてたような時代と同じ」。「豆の産地までたどって、今日の料理にはどこ産の胡椒がいいよね」というような使い分けや、「黒い胡椒は和食にもよく合う。白い胡椒は本来、発酵食品だから発酵させた物同士、お味噌やお醤油とすごく相性がいい」という倉田さんが紹介したような発想が広がれば、これからの食文化がより面白くなりそうだ。
また、「おそばに胡椒、うどんに胡椒は定番、と江戸時代の本に書かれている。だけどそういう文化がいつのまにか途絶えてしまっている」と、倉田さんは話す。まず、そばやうどんに胡椒をかけて食べてみるのは気軽にトライできそうだ。


コーラの実をカカオのように発酵させたら、新しいコーラができるかも
倉田さんの「白胡椒は本来、発酵している」という話に続いて、田淵さんからはチョコレートづくりにおける発酵の話へ。「カカオは植物なので、そのまま焼いても別においしくない。発酵とか酵素反応によって豆の中の成分が分解されたり再結合することで、焼いた時にすごくいい香りがするようになります。なので、おいしいチョコレートをつくるために発酵させるというのが目的なんですけども、チョコレートの世界で発酵という部分で頑張ってフレーバーを作っていこうぜ、と力が入れられているのはわりと最近の話です」。

カカオの発酵の話を聞いた小林さんは、「コーラの実をカカオのように発酵させたら、もしかしたら次のニューコーラみたいなものができるのかなって、それはすごい今気になってます」と興味津々。今回のトークが新たなクラフトコーラづくりのきっかけになるかもしれない。

胡椒、コーラ、チョコレートはいずれもすごく馴染みのある食品ですが、その産地や素材であるタネのこと、つくられ方、歴史的背景についてはあまり知られていないのが現状。これから胡椒、コーラ、チョコレートを選んだり、口にする時の見方が広がるトークとなりました。登壇していただいたゲストの方同士でもお互いの取り組みの話の中から知らなかったことやインスピレーションがあったようです。ここでの学びを、ファーマーズマーケットに集う人たちが食の探求やこれからの食文化に反映していけるトークを、今後も続けていきたいと思います。

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