【Report】NORAH TALK |菌から考える生き方の多様性

NORAH TALK “”菌””から考える生き方の多様性
 
私たちの身近に存在している菌。空気中に存在しているものだけではなく、日本人であれば日々の暮らしの中に取り入れているものもたくさんあります。記念すべき第一回目のNORAH TALKではそんな菌にまつわる仕事をしている方達をおよびし、彼らが菌と関わりながら実践する菌のように多様な生き方や暮らし方について伺いました。
 
▼登壇者一覧
嶋津和久さん 株式会社HIVE代表取締役
星野潤さん ほしの糀代表
寺田優さん 寺田本家24代目当主
 
<NORAH TALKとは?>
野良的感性を広げる TALK EVENT
Farmer’s Market@@UNUには、自由気ままに人間らしく、自然のリズムと共に生きる 「野良」な暮らしを実践する人々が集まっています。また、都市で生活を営みながらも、 自然を感じる充実した暮らしを目指す人々が出会う場でもあります。
” 晴耕雨読を実践するファーマー達の思想・知恵 ”
” 作る人と食べる人が出会うマーケットで生まれる食の探求・美味しい発想 ”
” 農業に限らず、都市の中で身の丈に合った小商いやスモールビジネスを営む人々のア イデア ”
野良的な感性を磨き、実践している方々を中心に、これからの未来の自由な生活を自分たちの手でつくっていく人々が集まる TALK EVENT です。
ーーー

内装業から発酵業へ 震災から気づいた食の大切さ
本職が店舗改装である株式会社HIVE代表取締役の嶋津さん。有名ブランドの店舗内装を行う傍で85という発酵をテーマにしたお店を中目黒の高架下にオープンした。全くちがう業界から発酵の道へ進んだのはなぜなのか?その理由は、東日本大震災をきっかけにして気づいた、食育の大切さと、環境負荷がかかりやすい業界だからこそ感じる、環境や健康に対する取り組みの大切さからだった。
 
マイぬか床バンクの始まりは子供達の未来のため
嶋津さんが、自身の幼少期を回顧して思い出したのは「ぬか床」。小さい頃から慣れ親しんできた日本の伝統食だが、忙しい都市部での生活においてぬか床の世話を毎日し続けることは難しい。しかしながら自分がそうであったように、現代の子供達にも家庭の味としてぬか漬けを楽しんでもらえるように、何かできることはないだろうか。各家庭ごとのぬか床の世話を省きながらも生活に寄り添ったについて考えて生まれたのが85のマイぬか床バンク。日々の管理を85の店舗で行うことで、家庭におけるぬか床の世話の手間を省く役割を担っている。
 
発酵から学ぶコミュニティのありかた
現在18組のぬか床を管理しているが、それぞれ持ち主ごとに、香りや触った時のテクスチャー、混ぜるときの馴染み方が違うとのこと。85のスタッフが日々適正に管理しているとはいえ、持ち主の方によって頻繁に漬け込み作業が行われていないぬか床は、開けた瞬間に「あれ?」というような元気がない匂いがするとのこと。逆に持ち主が頻繁に来店し様々な作業を行なっているぬか床は、香りがたかく、触った時の滑らかさが違うとお話しされていた。実際にぬか床自体の味も変わってくるらしい。85の運営を行なっている宇井さんによると、ぬか床の微細な成長や情報からいろんなことを学んだという。世話をし続けることで漬け込み時間が短くても美味しいぬか床ができる。このことは今の店舗におけるコミュニティ作りにも役立っているという。
 

どんな環境下でも造れる自給法、味噌造り
2人目の登壇者であるほしの糀代表の星野潤さんは、現在糀や味噌造りを行うワークショップを全国で開催している。オーストラリアや日本国内で農業に携わるうちに食べることに対する大切さを学んだそうだ。東日本大震災が発生時、スーパーマーケットやコンビニから食料がなくなっていく現状を目の当たりに。野菜作りをすることが困難な都市部に住む自身ができる自給のありかたを考え、出た答えが味噌造りだったという。味噌造りは造るところから熟成までのプロセスにおいて電気を使わず長期保存が可能だという点がとても魅力的に感じたそう。
 
体温で温める糀造り
しかし糀も作れるようにならないと本当の意味での自給自足にならないと、誰でも糀が作れるようになるには何が必要であろうかと模索した結果見つけたのが「だき糀」という糀の作り方。一般的に糀造りを行う際、糀菌を混ぜた蒸し米を36度から42度くらいでで管理するのだが、これは人間の体温とほぼ一緒。ということは体にこれらを巻きつけて置くことで糀になるのでは?という発想のもと、先にこの手法での糀造りを行なっていたかたに指南を受け普及活動を始めたのだという。
 
だき糀から生を感じる
糀を抱いてみてわかったことは、菌という存在を身近に感じることができたということ。最大3キロまではこの手法で糀ができるらしいのだが、抱いてみると結構重く、赤ちゃんを抱いているのと同じ感覚だそう。だき糀では48時間お腹に糀を抱くのだが、糀が発酵するにつれて自ら熱を出し始める。それがお腹に伝わってポカポカし始める。糀と丸2晩ともに過ごすと、温めてあげている感覚の1晩目から2晩目は湯たんぽを抱いて寝ている感覚になるまで成長する。筆者の友人(男性)が前にだき糀を試した時には、妊娠の擬似体験をしているようで、だき糀の体温が心地よく、精神的な安定感があったと語っていた。
 
柔らかく居心地のいい発酵コミュニティ
発酵をテーマにしてあつまる人たちは柔らかく、居心地がいい。と語る星野さん。秋前に星野さんを講師にお呼びしてファーマーズマーケットで開催した味噌造りワークショップ「味噌とおとも」でも、集まった参加者の人たちがおしゃべりを楽しみながら、糀に自分たちの手の常在菌を移し糀造りから味噌造りまでを行なった。ゆっくりと流れている時間の中で行う一連の作業の流れのなかで参加者同士の交流が自然と行われて、優しく居心地のいい空間であった。子供も大人も、どんな人でも、共に糀を混ぜることで確実に味噌の味に影響を及ぼすことができる。それを食べることによって菌の循環が起こる。これはコミュニティ形成と非常ににている。バックグラウンドが異なれども、味噌を介して手の常在菌を共有すれば同じ穴のむじな。仲間意識が自然と生まれるのかもしれない。
 

自然の理にそった酒造りに魅了されたカメラマン
最後は寺田本家24代目当主の寺田優さん。元々はカメラマンだった寺田さんは、写真家であり探検家の星野道夫さんに憧れて、3年間ほど野生動物を撮影するカメラマンとして活躍されていました。そんななか当時付き合ってた彼女、いまの奥さんの実家である寺田本家の手伝いを行なっているうちに、酒造りの魅力に気づき、結婚を機に本格的に酒造りを始めたそう。酒造りの面白さは、とてもシンプルなこと。酒造りは、秋のコメの収穫から始まり、気温が低い冬に仕込むことで乳酸菌の発酵を促し、春になり気温が暖かくなるにつれて酵母菌が発酵する。とても自然の理にそって行われていることがとても豊かである。昔は酵母菌を外から購入していたが、今は蔵の中に生きる酵母菌で酒を発酵させているので、毎年できる酒の味が変わる。その年によりブクブクと発酵するものもあればおとなしいものもある。多種多様な成長とともに樽ごとでも性格がでる。とても人間のようだなという印象だ。
 
失敗を恐れないことで変化を楽しむ酒造り
本来であれば酸っぱくなり過ぎてしまったお酒は失敗というレッテルを貼られてしまう。しかしながらそれを失敗ととらえずに、5年から10年といった年月をかけて熟成することで、酒の味がもしかしたら化けるかもしれない。人に個性があるように、酒ごとにも個性がある。それぞれの良し悪しを理解しながら、酒ごとの活用方法を試行錯誤しながら模索することで、違いを楽しむことができる。それは酒のみならず人間に対しても同じこと。失敗を恐れながら酒造りを行なっても新しいものは生まれない。失敗してもいい、探究心を優先に酒造りを行っている寺田さんの思いが、今の寺田本家の土台を作っているのだと感じた。お酒を作っている現場の人たちが楽しく、気持ちよく作ることが、美味しい酒造りに繋がる。すべての人が笑顔で心からお酒を楽しめる環境ができていれば、その場はとても豊かになる。それにより、酒、作り手、飲み手、全てのものや人が内側から発酵し、コミュニティを醸造すると寺田さんは語ります。
 
その信念は毎年3月に行われているお蔵フェスタにも見られ、全ての人が心から飲んで楽しくなるお酒があるからこそ、200店ほどの出店者と100名ほどのボランティアが主体となった大規模なイベントが行われている。11回目を迎えた前年度には5万人ほどの来場者が寺田本家がある神崎町に集まった。

なぜそんなに多くの人が寺田本家を愛しお蔵フェスタに集まるのか?
この答えは寺田本家の大ファンである参加者の1人が答えてくれた。お蔵フェスタに出店している方達のほとんどが、日頃から寺田本家の糀や酒を使用しており、その繋がりを大切にし、誇りに思っているからだと、「当主はなかなか言いにくいだろうから」とくすりと笑いながら教えてくれた。そんな出店者は寺田本家がある神崎町を誇りに思い、寺田本家とともにまちづくりを行なっていると自負している。寺田本家のある神崎町が「発酵の里」を自負するだけあって、町が一丸となって発酵に対する思いを一つにしている。寺田本家に関わる人、行政、団体がもつそれぞれの誇りが寺田本家と関係しあうことによって大きなコミュニティ形成に繋がっている。
 

それぞれのライフスタイルとともに味にも個性が光る「味噌びらき」
今回のNORAH TALKでは2018年7月に糀造りから味噌造りまで行なったワークショップ「味噌とおとも」の参加者による味噌びらきもイベント後半で行われた。「前にラテンダンスのダンス教室の床下で成長した味噌を試食したことがあるのですが、刺激的でピリッとした絡みがある味噌になったんですよ。」と笑いながら話していた星野さん。そんな笑い話のあとに集まった味噌は、匂いからしてそれぞれに個性を感じる。持ち主のライフスタイルやストーリーを知った上で味見すると、性格に準じた味になっている気がして興味深い。例えば大学教授をされている参加者の方の味噌は白ワインの香りがし、味も少しチーズのような芳香な旨味があり、また情熱的でいつも元気な方の味噌は、本人もおっしゃっていたが、塩気がきいてラムの香りがした。9月に行なった味噌造りでは、参加者全員で1つの味噌を仕込んだので、大豆、糀、塩の割合や入っている常在菌の種類も全て同じはずなのにも関わらず、ここまで味が変わるものなのかととても興味深かった。
 
NORAH TALKから味噌びらきまで、今回は発酵をテーマに展開していったが、現代社会において私たちはこれからの自分たちの暮らし方や生き方を発酵から学ぶことができるのではないかという気づきがあった。寺田さんがおっしゃるように、星野さんのお味噌や85のぬか床もそうであるように、同じ材料でも出来るものは香りや味、テクスチャーも違い多種多様。私たちの生き方も、失敗を恐れずに違いを楽しむことで豊かなものになっていくのではないだろうか?
 
ーーー
▼Farmer’s Market Community Clubで開催中 
Farmer’s Marketに集う農家さんを中心とした、NORAH(野良)的な感性を持つ多様なメンバー。時代や季節の変化に応じて、柔軟に生きること。自由な発想で自分の生業を生み出していくこと。日々変わる状況を楽しみ、力に変えていく。そんな生き方を実践しているのが、このFarmer’s Marketに集う人々です。

いま、10年目を迎えるFarmer’s Marketにおいて、農家さんを支え、共に学び楽しみ、農的暮らしの探求するためのコミュニティが必要だと考えました。その活動の中心となるのが、このFarmer’s Market Community Club。
都市における農や食の新たな関わり方の提案の一つであり、実験の場でもあるFarmer’s Market。このムーブメントを更に発展させ、継続していくための、メンバーを募集します。

COMMUNITY CLUB


ーーー

2019.1.10

ニュース